前回の記事の最後にお伝えした通り、2月中旬に麻布テーラーで春夏用のスーツを作りに行ってきました。
麻布テーラーは全国展開をしている有名店ですが、実は初めての利用でした。
今回はお店の特徴とオーダーの流れについて書いてみようと思います。
麻布テーラーについて
1918年に大阪で創立した老舗紳士服メーカー「メルボ紳士」を母体として、1999年に「麻布テーラー」がスタートしました。
当初は高級テーラーとして知られていましたが、青山商事など安価な量販店の台頭に押されて、2001年には民事再生法を適用。その後は一部高級路線を残しながらもリーズナブルな価格帯を中心に人気を博して成功を収めています。
テーラーの特徴としては、選べる生地が数千種類と豊富であることと、全て国内の縫製工場で作られているMad In Japanのスーツであるということが挙げられます。
この価格帯であれば中国やベトナムの工場で作られることが一般的なので、国内生産を維持していることには驚きました。
私は日本製信者ではありませんが、日本製のタグを見ると何故か少し嬉しくなりますね。
麻布テーラーは広告にも力を入れているようで、雑誌やネット広告で見かける機会も多く、初めてオーダースーツを作ろうとする方であれば、同価格帯の「グローバルスタイル」「花菱」と並びお店選びの候補に入るのではないでしょうか。
実際に私も麻布テーラーには興味を持っていましたが、ここ最近利用していたグローバルスタイルに特に不満がなかったので、今までは縁がありませんでした。
別にこれといった理由はありませんが、知名度のあるお店なので一度経験してみようと思い、今回予約をしました。
全国に26店舗あり、私の暮らす福岡県内には「博多店」と「SQUARE福岡店(天神)」の2店舗があります。
立地的にはどちらでも良かったのですが、名前に「SQUARE」と付く店舗はオーダースーツの他にインポートブランドのパンツやネクタイを扱うセレクトショップを併設するお店だとのことで、せっかくなので「SQUARE福岡店」を訪れました。
ちなみに1階がセレクト品コーナー、2階がオーダーサロンとなっていました。
麻布テーラーのオーダースタイルは?
ひとえにオーダースーツと言っても、仕立てや縫製方法によって種類を分けることができます。
大きく分けた3つのオーダースタイルを簡単にご紹介します。
パターンオーダー
ゲージと呼ばれる既成のサンプルスーツを試着して、ジャケットの着丈・袖丈・ウエスト、パンツの股下・裾幅・ウエストを調整していきます。
着丈や袖丈など縦軸の調整はある程度自由が効きますが、ウエストなど横軸の調整は型崩れをおこしてしますので、調整可能な幅は限られてきます。
なので基本的には調整できない肩回りでジャケットのサイズを選び、可能な範囲で横軸を調整していくことになります。
一般的な体系の方であればパターンオーダーでも十分事足りますが、ガタイの良い方・極度な痩せ型・いかり肩・なで肩の場合はフィッテイングに満足いかない可能性があります。
最も簡素なオーダー方法で麻布テーラーもパターンオーダーを採用しています。
イージーオーダー
パターンオーダーと混同されがちですが、ゲージを元に調整を行うパターンオーダーと違い、イージーオーダーは決められた型紙をベースに本人にあわせたより細かな体型補正が可能となります。
もちろん元となる型紙が存在するので補正の限度はありますが、パターンオーダーと比べると本人の体の特徴や癖に対応可能となります。
ちなみに、ご存じかと思いますが型紙とは服の設計図のようなモノです。
参照;https://www.agms.co.jp/products/05_od.html
フルオーダー
本人に合わせて型紙を一から起こす、正真正銘の自分だけの一着。
まさに男の憧れです。
その代り価格も最低でも20万円以上からとそれ相応の費用が掛かります。
またフルオーダーでのみ、生地を立体的にフィットさせるために仮縫いの工程が途中で入ります。
オーダーの進め方
一般的なパターンオーダーのお店と流れは一緒なので、初めてオーダースーツを作ろうと思う方は是非ご参考ください。
予約
完全予約制のお店ではありませんが、事前に連絡していた方がスムーズに案内してもらえます。web予約のフォームを使うと簡単に予約できます。
担当フィッターによるヒアリング
まず来店すると担当フィッターの方を紹介されます。
ヒアリングでは着用場面・予算・完成イメージを聞かれます。
私の場合、今回はこんな感じです。
着用場面:仕事
予算:7~8万円
完成イメージ:春夏用、無地のネイビー
生地の種類などは実物を見てから決めてもよいと思いますが、せめて予算は決めておかないと選択肢が膨大すぎて永遠に終わらなくなってしまいます。
生地選択
スーツをオーダーする際に最も悩ましく、楽しい時間です。
麻布テーラーではバンチブックと呼ばれる冊子に5cm×10cm程度にカッティングされた生地が綴じられています。
お店によっては大判ストール程のサイズでサンプル生地が用意されていますが、バンチブックだと面積が小さいので、そこからスーツの完成系をイメージすることは少し難しかったりします。
サンプルと比べると完成品は圧倒的に面積が大きくなるので、色味はより明るく、柄はより派手になります。慣れないうちは注意が必要です。
生地ブランド毎に価格が分かれており、予算に応じて各ブランドのバンチブックを用意してもらいます。
国内ブランドの生地で4万~5万円、セレクトショップに置いてあるようなジャケットでお馴染みのCANONICOやREDAで7万円、高級生地ブランドと名高いLoro PianaやZegnaで10万円となります。
特に有料オプションを付けなければ、この生地代がそのままスーツの値段になります。
今回は無地のネイビーでと決めていましたが、いざバンチブックをめくり始めると全然関係のないカーキ系の生地やグレンチェックの生地が気になりだす始末です。
そもそも無地のネイビーだけでも膨大な種類があるので、生地選びに40分程掛かりました。
ちなみに今回選んだのは、春夏らしくざっくり織られた、ネイビーというよりブルーに近いCANONICOの生地でした。
モデル選択
麻布テーラーでは3種類のハウスモデルが用意されています。
以下、各モデルの説明文は麻布テーラー公式サイトより引用です。
https://www.azabutailor.com/order/suit/model/
英国のビスポークに影響を受けながら、イタリアならではの感性が融合された、戦うビジネスマンに最適なモデル。着心地を追及するための毛芯使いなどで柔らかな着心地です。
コンチネンタル
なだらかに傾斜したゴージラインと、適度に広いラペル巾、ウエストシェイプやポケット位置を低く設定する事によって落ち着いた雰囲気を表現した、大人っぽいヨーロピアン・クラシック・スタイルです。
ジェットクルーズ
オン・オフ対応できる新感覚のセットアップコンセプトのモデル。オン・オフでの着回し力を持たせる為、軽量化されたジャケットやカジュアルフィーリングを取り込んだディテールオプションをご用意しております。
簡単にまとめると麻布テーラーのスタンダードが「クラシコイタリア」、よりクラシックな趣がある「コンチネンタル」、カジュアルで軽快な着心地の「ジェットクルーズ」といったところでしょうか。
個人的にはコンチネンタルの雰囲気も好きなのですが、会社ではノーネクタイが前提なので広めのラペル幅がしっくりこないと感じ、スタンダードモデルのクラシコイタリアを選択しました。
クラシコイタリア・コンチネンタルの両モデルとも厚さ1cmの肩パッドが使用されていますが、肩パッドは薄めのナチュラルショルダーが私の好みなので、3mmの肩パッドに変更しています。
フィッテイング
モデルが決まったら、採寸を行い既成のサンプルスーツ数着を試着して自分に合うベースとなるサイズを選びます。
ベースとなる既成ジャケットは肩回りを基準に選び、その他の部分を可能な範囲で調整していきます。
ディテール選択
フィッテイングが終わりスーツの全体像が決まれば、最後にディテールを選んでいきます。
詳細は次項目にてご紹介させていただきます。
ディテールが決まったら、最後に会計をして終わりとなります。
生地選びに時間が掛かったこともあり、所要時間は約2時間でした。
オーダーしてから4~5週間で完成します。
選択可能なオプション
生地とベースとなるモデルを決めてしまえば、後は趣味の世界です。
お好みのディテールを選んでいただければよいのですが、予備知識なしで挑むと青をしがちなので、ご参考までに。
ボタンの種類
◆プラスチックボタン
無料ですが、チープな質感は否めません。
◆本水牛ボタン
品格もあり最も無難ですが、色味に個体差があります。
◆白蝶貝ボタン
眩い光沢を持ち存在感は抜群ですが、耐久性は低いです。
◆ナットボタン
植物由来の素材。カジュアルな雰囲気です。
◆メタルボタン
一般的にはブレザー用です。
プラスチックボタン以外は有料オプションとなります。
ラペルの種類
ラペルとはジャケットの襟のことを指しています。
◆ノッチドラペル
V字型の切り込みが入った、一般的なスーツに採用される襟型です。特に指定をしない限りノッチドラペルになります。
◆ピークドラペル
下襟が上向き尖った襟型です。より華やかな印象を与えてくれますが、ビジネスシーンにはやや不向きです。またダブルのジャケットの場合はピークドラペルが一般的です。
◆ショールカラー
切り込みが入らずに弧を描くような襟型です。基本的にはタキシード用です。
フロントボタンの仕様
◆2つボタン
現代のスーツにおいて最もスタンダードな仕様です。
◆3つボタン段返り
3つのボタンが付いていますが、一番上のボタンは折り返されているので、ボタンを留めることはできない飾りです。アメトラ的なディテールです。
◆3つボタン
段返りでない3つボタン仕様。着用の際は上2つを留めます。一昔前に流行っていたそうですが、現在ではほとんど見かけることはありません。
◆ダブル
上記3つはシングルジャケットであることが前提ですが、ダブル仕様も選択可能です。
袖口の仕様
◆飾り切羽
袖口のボタンホールはフェィクで、シャツのような袖口の開閉はできません。
◆本切羽
実際にボタンホールが空いており、袖口のボタンを外すことができます。
こちらは3,000円の有料オプションです。
ベント
ベントとはジャケットの後ろ裾のことです。
◆センターベント
中央に切り込みが1本入っています。
乗馬時に動きやすくするためというルーツを持ちます。
◆サイドベンツ
両サイドに1本ずつ、計2本の切り込みが入っています。
騎士が剣を抜く際に邪魔にならないようにという由来があります。
◆ノーベント
切り込みがないベントです。
上記2つがやや血生臭い出自を持っていますが、争いごとが起きないようにとの意味も含め、フォーマルシーンで好まれます。
裏地の生地
キュプラの方がより滑らかな肌触りを持つ高級素材です。
ポリエステル・キュプラともに様々なカラーバリエーションがあり、また無地かストライプを選べます。
裏地の仕立て
◆総裏仕立て
裏地が背面全てを覆う仕様で、秋冬用で使わることが多いです。
◆背抜き仕立て
裏地が首元から肩回りのみで、春夏用に採用されることが多い仕様です。
ジャケットのサイドポケット
◆フラップポケット
ビジネススーツでよく見られる蓋(フラップ)つきのポケット。
◆スラントポケット
フラップが平行ではなく、斜めに取り付けられたポケット。
◆チェンジポケット
右側のポケットの上にもう一つ小さなポケットが付いたデザイン。
チェンジとはおつりのことで、元々はつり銭入れだったそうです。
◆ノーフラップポケット
蓋(フラップ)なしのポケット。主にフォーマルシーンで好まれます。
◆パッチポケット
外付けのポケットで、一般的にカジュアルジャケットで使われます。
スラックスのウエスト回り
◆ベルトルーフ
一般的なベルトを使ったウエストサイズの調整をするタイプです。
◆サイドアジャスター
ベルトは使わず両端に付属するアジャスターでサイズ調節をします。
◆サスペンダーボタン
サスペンダーを掛けるためのボタン。
スラックスのタック
◆ノープリーツ
◆ワンプリーツ
◆ツープリーツ
タックの数が少ない方がスマートで、多い方がクラシックな印象があります。
また、タックの内向き・外向きも選べます。
一般的には外向きが主流です。
裾の処理方法
◆シングル
◆ダブル
ダブルを選ぶ場合は折返し幅を指定することになります。
現在の主流は4.5cm~5.0cmと言われています。
部分的な縫製方法の指定など、まだまだ細かいオプションは存在しますが、まずはここで上げた項目を抑えておけば問題はないと思います。
麻布テーラーは3ピースがおすすめ
今回は春夏ものということでベストは付けませんでしたが、麻布テーラーでオーダースーツを作るならベスト付きがおすすめです。
というのも、どの生地を選んでもプラス13,000円(+税)でベストを作ることが可能なのです。
つまり、40,000円の国内メーカーでも100,000円のLoro Pianaでも同じ13,000円でベストが作れるということです。
お高い生地ほどお得なんですねー
次の機会があれば、是非3ピースのスーツをお願いしたいです。
まとめ
所感として、担当していただいたフィッターさんの個性なのか、お店の方針なのか分かりませんが、積極的に話かけてくることはなく、こちらが質問したときだけ適切な解答を頂いた印象です。
先日完成の連絡がありましまが、都合が合わず取りに行けていません。
何着かオーダースーツを作ってきましたが、いまだに完成品のイメージはぼんやりとしています。
それだけに待っている約1ヶ月の間は、クリスマスを前にした子どものような気分でいられますw
次の休みにお店へ伺おうと思いますので、完成したスーツは後日ご紹介したいと思います。
今回は以上です。