諸事情によりご紹介が遅くなってしまいましたが、2月前半にFIVE ONE(ファイブワン)でオーダーしていたスーツが完成しました。
初めて利用したテーラーではあるものの、なぜか一切の不安はなく期待感しかなかったのですか、どうやらその直感は当たっていたようです。
イメージ通り、そして満足度の高いスーツをご紹介します。
ファイブワンの特徴やオーダーの流れについては前回の記事【オーダー編】をご覧ください。
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ファイブワンのオーダースーツをレビュー
概要
今回採用したハウスモデル「YMJ」はファイブワンの中ではモダンクラシックという立ち位置であり、比較的にシャープでコンパクトな作りになっていますが、やや大きめのゲージ(サイズ50相当)をベースに細かい調整をかけているので、私がこれまでオーダーしてきたスーツと比べてもゆったりとしたシルエットで、クラシカルな雰囲気が強めに打ち出されています。
生地はカノニコの定番サマーウール「RUSTIC(ラスティック)」。カラーは絶妙なグレー混じりのブラウンです。室内だと画像のようにグレーっぽくも見えますが、太陽の下ではよりブラウンが強く映ります。
バンチの時点ではこんな感じでチャコールのようにも見えましたが、やはり実際に仕立てると印象が変わってきますね。でもこれは予想通りです。オーダースーツ10着目にしてようやくバンチから完成のイメージしっかりとできるようになりました。
軽やかな生地ではありますが、身頃の裾までしっかりと副素材の詰まった総毛芯により仕立てられているので一定の構築感があり、ラペルや首元のアイロンワーク、可動域の広い肩回りなど、随所に見られる技術力の高さから国内屈指のテーラードファクトリーの実力を推し量ることができます。
ディテール
織が粗くザラっとした手触りのカノニコのサマーウール「RUSTIC(ラスティック)」。ご覧の通り所々表面に白っぽい糸が露出して全体的にメランジ感があります。光の加減によって見え方が異なる生地なので画面越しで伝えるのが難しいところですが、色味はこの写真が実物に一番近いかと思います。
ウール100%でありながらシワが残りにくく、適度なストレッチ性能も兼ね備えているので機能面でも申し分ありません。ハリ感があって目付も240g/mと軽すぎないので、ビジネス用途の端正なスーツを仕立てるのにはピッタリですね。
ジャケットの顔であるラペルは幅が約9cmとやや広め。ゴージラインの位置は平均的な高さでしょうか。ふんわりとしたロールも美しいですね。
それよりもここで注目すべきは上襟の方。縁側がここまで大きくカーブした上襟は見たことがないですね。好き嫌いは分かれるかもしれませんが、エレガントな雰囲気を感じられ、私は結構気に入っています。
さらに上襟の内側を見てみると、一枚襟で仕上げていることが確認できます。そもそも一枚襟とは何かということに触れておくと、ジャケットの首回りは立体的に作り上げる必要があり、それを容易にするために2つのパーツを繋ぎ合わせる二枚襟が現在では主流になっていますが、それを敢えて1枚の生地だけで完成させる手法のことです。
一枚襟は丁寧なアイロンワークによりクセを付けていくため、より高い技術と手間を要することになりますが、それでもなお一枚襟が好まれるのは首元への馴染み方が違ってくるからです。
実際にこのジャケットは首元のフィット感が抜群に良いですね。それは単に一枚襟だからというより、アイロンワークのレベルの高さ故だとは思っていますが、いずれにしても本当に素晴らしい。
(参考)二枚襟のジャケット
参考までにですが、こちらは私が所有する二枚襟のジャケット。中央に切り返しが入っているので分かりやすいかと思います。
襟裏を覗いてみるとヒゲ襟は当然として、フラワーループまで付いています。フラワーループとはフラワーホールの下に位置する糸の輪で、かつては花を挿す時に茎をここに通して固定する役割を担っていたそうです。
私も知識としては知っていましたが、実物は初めて目にしました。もちろん現在ではほぼ不要なディテールですが、見えない所にまで気を遣っているのは流石。神は細部に宿るとはこういうことでしょうか。
肩回りはこんな感じ。最初は肩パッドを抜くことも考えましたが、ファイブワンでの最初の1着ということもあり、標準仕様の2mmパッドのままにしています。とはいえ厚さ2mmとなると極薄の類なので、着用時の違和感はほぼなく、あくまでも自然な感じだと思います。
また、吊るしだと少し分かりにくいですが、イセ込みのボリュームもしっかりとあります。肩回りの動かしやすさを左右する重要なポイントになります。
続いてショルダーラインを天井視点から見てみましょう。前見頃より後見頃の方が広く取られていることが分かりますね。これは日本人によく見られる前肩体型を補正するための手法です。ただ生地の分量が違うだけと思われがちですが、これを自然に美しく仕上げるのにも高い技術を必要とするそうです。
ボタンは生地に馴染むように同系統のダークブラウン。もちろん本水牛製で、これがファイブワンの標準仕様です。
ボタン付けも根巻きされていて高さがありますね。これによりボタン留めがスムーズになります。こういうの大事です。
袖口のボタンは重ねの本切羽。これも標準仕様となります。
今回はポケットのフラップを外してみました。ビジネススーツはフラップポケットと決めつけてしまう節がありますが、よくよく考えると別になくても良いと思うんですよね。室内外でフラップを出し入れする謎マナーを気にする必要がなく、それに余計な突起物がない分シルエットもきれいに見えます。
裏地はキュプラでお台場仕立て。やはりこれも標準仕様です。春夏用なので背抜きにしています。
パンツの方はこれといって語るポイントはないのですが、ワンプリーツでベルトルーフレスのサイドアジャスターを採用しています。持ち出しを長くしているのはオプション指定箇所になります。
アジャスターの設置場所もいくつか選べましたが、まぁ普通の位置ですね。
裾処理はいつもの4.5cmダブル。ややゆったりめなジャケットに合わせて、裾幅も細すぎない19.0cmに設定しています。
着用感と着こなしイメージ
やはりスーツは実際に着てみないとその魅力は伝わりませんね。どうでしょうか、非常に美しいシルエットに仕上がっていると思います。方向性としてはスタイリッシュというよりはエレガント。従来よりゆとりを持たせたフィッテイングが功を奏しました。
言うまでもなく着心地も素晴らしいですね。前述の通り上襟は首元へ吸い付くような感覚があり、肩回りも至って自然で腕を動かした際に生地が引っ張られるような違和感もなく、羽織っていて一切のストレスを感じないジャケットです。
画像ではタイドアップしていますが、実際にはノーネクタイで過ごすことも多いので、ボタンを留めない場合のシルエットも気になるところ。適度にウエストのシェイプも残っていて、この状態でもなかなかきれいにキマっているかと思います。
ラペル周りや胸元の雰囲気は少し角度を付けた方が分かりやすいでしょうか。
こちらはバックショット。背抜きなのでどうしても多少のシワは寄ってしまいますが、十分許容可能な範疇かと思います。強いてフィッティング面でもう少し調整を入れるとしたら、やはりここら辺でしょうか。
着丈はお尻がすっぽり隠れる十分な丈感を確保しています。もういい大人なので、短丈のジャケットは着られません。
最後に全身を。ネクタイと革靴もブラウンで纏めてみました。季節感という観点であれば少し微妙かもしれませんが、結局こういうのが好きなんですよね。
まとめ
最初から期待はしていましたが、期待以上のスーツが出来上がりました。オーダースーツの満足度で言えば過去最高かもしれません。
総額は126,170円と2ピーススーツとしては価格面でも過去最高でしたが、この仕様とクオリティであれば、むしろお得に感じますね。
私の経験値がそこまで高いわけじゃないので、偉そうには語れませんが、感覚的に同等レベルのスーツを名のあるブランド、例えばリングヂャケットやラルディーニあたりで買おうとしたら、既製品であっても少なくともプラス5万円は必要になるんじゃないかと思います。もちろん、それらとは性格が異なるので一概には比べられませんが、オーダー品で、このクオリティで、そしてこの価格なら非常に良心的かと。
オーダースーツはお金をかければ、いくらでも良い物が手に入りますが、15万円以下という括りであれば、おそらくこのファイブワンは最高峰のレベルにあるのではないかと思います。間違いなくおすすめですね。
今回は以上です。