
「ボタンダウンシャツでネクタイをすべきではない」という意見をSNSで見かけることがあり、定期的に議論の的になっているみたいですね。
過去の記事で似たようなテーマを扱ったこともありましたが、今回はタイドアップの是非に絞って、改めて私の考えを述べてみようと思います。
結論から申し上げると、「ボタンダウンシャツにネクタイはあり」です。ただし、いくつかの条件が付きます。
それではどうぞご覧ください。
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前提

ボタンダウンシャツの歴史と日本への影響
ボタンダウンシャツの起源は19世紀のイギリスに遡ります。ポロ競技の選手達が着用していたシャツにおいて、激しい動きの中で襟がばたつくのを防ぐため、襟先をボタンで留めたのが始まりです。
転機が訪れたのは19世紀末。アメリカの名門・ブルックスブラザーズの創業者の孫にあたる人物が、イギリス旅行中にポロ競技の観戦に訪れた際、選手が着用するシャツに目を留めたことでした。彼は「襟をボタンで固定する」というアイデアを自社のシャツにも応用できると考え1896年に商品化。これが世界初のボタンダウンシャツとされています。(ちなみにブルックスブラザーズではルーツに敬意を表して現在でも「ポロカラーシャツ」の名称で商品展開されています。)
もともとはスポーツ由来であったボタンダウンシャツでしたが、ブルックスブラザーズは単なるカジュアルアイテムとしてだけではなく、当時の看板商品であったNo.1サックスーツと合わせて売り出され、アメリカ流のドレススタイルに組み込むことが提案されていました。もちろん当時のスーツスタイルはタイドアップが前提です。
No.1サックスーツとは様々な体型の人でも着られるように、ウエストに絞りを入れないストンとした直線的なシルエットを採用したアメリカらしい合理的なスーツです。従来のイギリス式のカッチリとしたスーツとは異なる、やや肩の力が抜けた雰囲気を持っていました。そのため、ふんわりと柔らかいロールを描くボタンダウンシャツはNo.1サックスーツとも好相性というわけなのです。こうして現在まで脈々と続いている典型的なアメトラスタイルが誕生しました。
その後、アメリカの服飾文化は世界中に広がっていきますが、特に戦後の日本は多大な影響を受けました。高度経済成長期に急増したスーツ姿のビジネスマン達の中にもボタンダウンシャツを愛用していた方は多かったのではないかと思われます。
このようにして近代日本の洋装文化はヨーロッパではなく、アメリカにより培われた側面もあり、その影響は現在のビジネススタイルにまで色濃く残っています。とりわけスーツの着こなしにおいては、イギリス的な厳格さよりも、実用的で柔軟なアメリカ的価値観が基準となってきました。
そのため「スーツ+ボタンダウンシャツ+タイドアップ」という組み合わせが、日本では当然のような存在となっていると言っても間違いではないでしょう。
ビジネスはフォーマルではない
ファッションを指南する動画などで、スーツのようなかっちりとした装いを「フォーマル度が高い」と表現されているのを見かけることがあります。言わんとすることは理解できるものの、厳密にはややズレがあり、おそらくそこで指しているのは「ドレス度が高い」という意味合いに近いのでしょう。
というのもフォーマルとは本来、冠婚葬祭のように厳格なドレスコードが求められる場面を指す言葉です。タキシードやモーニングコートに代表されるような装いがそれにあたり、着用ルールも明確に定められています。一方で、一般的なビジネスシーンはそこまでの厳格さを求められる場ではありません。あくまで「きちんとして見えること」が重要なのであって、フォーマルウェアそのものが必要とされているわけではないのです。
この違いを踏まえると、ビジネススタイルは「フォーマル」ではなく、「ドレス度の高い日常着」と捉えるのが適切でしょう。つまり一定の品位は求められるものの、ある程度の自由は許容されています。
ここでボタンダウンシャツの立ち位置が見えてきます。ボタンダウンシャツはスポーツ由来という背景から、厳密なドレスシャツと比べるとカジュアルな要素を含んでいます。しかし、適切な素材を選べば見た目にも十分な清潔感があるため、ビジネスシーンにおいては十分に「きちんとした装い」として成立します。
実際のところ職種や社風によって、求められるドレス度は変わってくるので、一概にそうとは言えませんが、ビジネスカジュアルが浸透しきった現代において、ボタンダウンシャツが否定されるケースはごく稀でしょう。
ボタンダウンシャツにネクタイはありなのか?
ここまでの前提条件を踏まえると、日本のビジネスシーンにおけるのボタンダウンシャツは、以下のような扱いになるかと思います。
- ボタンダウンシャツのルーツはスポーツ由来ではあるが、ブルックスブラザーズにより一般化され、スーツと合わせてタイドアップする装いは1つの定番スタイルとして確立された。
- アメリカの洋装文化に強く影響された日本でも、その流れを汲む形でビジネスマンの間でも広く受け入れられてきた。
- そもそもビジネスはフォーマルのように高かいドレス度を求められる場ではないため、カジュアル要素を含むボタンダウンシャツが必ずしも否定されるわけではない。
つまり、理屈としては冠婚葬祭のような特別な場面ではない限り、「ボタンダウンシャツにネクタイはあり」となるのです。
一方でファッション的な観点からすれば、アイテムの組み合わせとしてボタンダウンシャツが合う場合と、そうではない場合があるということも考える必要があります。私としても全ての装いでボタンダウンシャツのタイドアップが成立するとは思っていません。
まず押さえておきたいのは、「合う・合わない」は単にシャツだけの問題ではなく、全体のバランスで決まるという点です。ボタンダウンシャツは襟が柔らかくロールするため、装い全体にもどこかリラックスした空気感をもたらします。したがって、その雰囲気と他のアイテムが調和しているかどうかが重要になります。
ここではいくつかの実例を交えながら、ボタンダウンシャツのタイドアップの相性を評価してみようと思います。
ドレス度の高いスーツ

光沢感の強いチャコールグレーのスーツとサテンのソリッドタイ。ビジネスでも使えなくはありませんが、私としては結婚式など特別な日専用という立ち位置の一着です。フォーマルウェアほどではないにしろ、非常にドレス度の高いスーツとなっているので、ここにボタンダウンシャツを合わせてしまうと、襟元だけがややカジュアルに見えてしまい、全体の統一感を損ねる可能性があります。
ビジネスの場であれば、絶対にNGというわけではありませんが、このような装いではレギュラーカラーやセミワイドカラーのような襟型を選んだ方が、全体としての完成度は高まります。よほどの上級者でもない限り、あえて「外し」を入れる必要はないでしょう。
カジュアルな雰囲気のあるスーツ

ややザラっとした質感を持つサマーウールの生地で仕立てた、発色の良いブルーのスーツ。合わせた同系統色のネクタイは、凹凸感のあるメッシュ状の織り目が特徴のフレスコタイです。色味と生地の風合いによって、先ほどのダークスーツのような強いドレス感はなく、全体的にカジュアルな雰囲気を持ったコーディネートと言えるでしょう。
このような装いであれば、ボタンダウンシャツのタイドアップも自然に馴染みます。それぞれの生地に表情があり、柔らかいロールを描くボタンダウンの襟と上手く調和が取れているためです。
とはいえ、個人的には選択肢の1つとしてはあっても、積極的にはボタンダウンシャツを取り入れることはありません。ややスポーティな素材感のスーツとはいえ、ビジネス使いに差支えがない程度の格式は保っているので、パッと見て違いが伝わる襟型ではなく、シャツの生地使いで適度なカジュアルダウンを試みます。定番のピンオックスや春夏ならリネン混、秋冬ならフランネルなどが良いでしょう。
まぁ、そこは好みの範疇なので、ボタンダウンシャツという選択も大いにありだとは思います。
ジャケットスタイル

グレージュのジャケットとブラウンの小紋タイによるジャケットスタイル。ジャケット自体に柄が入り、色味も柔らかいアースカラーでまとまっているため、スーツスタイルほどの緊張感はありません。また、いわゆるビジネスカジュアルの装いとなるので、合わせるシャツの制約は一気に広がります。
このコーディネートであれば、ボタンダウンシャツのタイドアップは非常に相性が良いでしょう。ボタンダウン特有のスポーティな襟元が、ジャケットスタイルの軽快さとよく合い、ほどよく力の抜けた感じに仕上がっています。合わせているシャツには目の粗いオックスフォード生地が使われ、だいぶカジュアル寄りとなっていますが、それでも全く違和感なく成立している辺り、やはりスーツとは根本的に組み立て方が異なるのです。
逆にクラシカルなレギュラーカラーだと、シャツだけがドレッシーすぎて浮いてしまう可能性があります。どのような装いであってもテイストに差をつけすぎないバランス感が大切ですね。
アメリカントラディショナル

ボックスシルエットのネイビーブレザーと右下がりのレップタイを組み合わせた、分かりやすい王道のアメトラスタイル。ここまで徹底してアメトラに寄せると、一歩間違えればコスプレ的な見え方になってしまう危うさもあるため、個人的にはあまり取り入れることはありませんが、アメリカの文脈にある装いの例として挙げさせていただきます。
先述の通り、スポーツ由来ではありながら、アメリカでドレススタイルとして昇華されたボタンダウンシャツだからこそ、むしろ合わせるシャツは他に考えられないと思わせるせるほど、この組み合わせには必然性があります。こればかりは理屈ではありません。
おそらくここにセミワイドカラーのシャツを合わせても見た目の上でもは、なんらおかしくはありませんし、その方が洗練して見えるという方もいるでしょう。それでもなお、「ボタンダウンしかない」と思わせるのは、長い年月をかけて積み上げてきたスタイルであるからです。もっと大袈裟に表現すると、それが文化だからとも言えます。
要するに、ここまで論じてきたような「ドレスか、カジュアルか」というテーマの外にある別枠となるわけですね。
まとめ
巷でよく話題に挙がる、ボタンダウンシャツのタイドアップの是非について、頭の中でぼんやりと感じていたことを少し理屈っぽく述べてみました。
繰り返しになりますが、「ボタンダウンシャツにネクタイはあり」です。
ただし、ボタンダウンシャツにはカジュアルな要素が含まれているので、装い全体としての調和が取れているのかを意識しなくてはなりません。
今の時代、冠婚葬祭さえ避ければどのような場面でもあっても、ボタンダウンシャツにネクタイを合わせて文句を言われることはないでしょうが、アイテム単体で「あり・なし」を判断するのではなく、スーツやネクタイとの組み合わせの中で、どのようなスタイルを作りたいのかを考えることが大切なのだと思います。
様々のご意見があるかと思いますが、ご参考までに。
今回は以上です。