今回は春から夏にかけて最も着用頻度が高くなる愛靴、ジャランスリワヤのコインローファーをご紹介します。
いまや多くのセレクトショップや百貨店で取り扱われて、雑誌等ではコスパに優れたシューズブランドと紹介されることが多いですが、その実力はいかがなものでしょうか。
- ジャランスリワヤとは?
- ハンドソーンウェルト製法
- デュプイ社製レザー
- コインローファー「98589」
- 「98589」のサイズ感
- 21年SSよりリニューアル
- 本当にコスパが優れているのか!?
- コーディネート
- まとめ
ジャランスリワヤとは?
まずはジャランスリワヤというブランドの成り立ちについてご紹介。
その英語やイタリア語でもなさそうな耳馴染みのない響きのブランドネームからいったいどこの国のブランドかと思いきや、こちらfromインドネシアのシューズメーカーです。
ちなみに「JALAN SRIWIJAYA(ジャランスリワヤ)」という言葉はインドネシア語で「歩く」を意味しています。
革靴と言えばイギリス・フランス・イタリア・アメリカそして日本がぱっと頭に思い浮かびますが、インドネシアというのはあまりイメージが出来ないところです。ただ、実際の生産国となると中国とベトナムが多くのシェアを占め、インドネシアもそれらに続く靴産業が盛んな国なのです。
そんなインドネシアを代表する革靴ブランドのジャランスリワヤですが、1919年設立した前身の靴製造工場はオランダの植民地であったことから外国人向けの軍靴を製造していました。
工場の歴史は一度途絶えますが、1970年代に入り「フォルトゥナシューズ社」として工場は再開しました。
その後、経営者の息子であるルディ・スパーマン氏は英国靴の聖地ノーザンプトンで伝統的な手作業によるハンドソーンウェルト製法を習得し、また皮革生産の本場のフランスでレザー生産を学び、現地の業者とコネクションを築きました。そのノウハウに基づき2003年に「ジャランスリワヤ」ブランドをスタートさせたのです。
安価な人件費でありながら、本場仕込みの確かな技術力は評判を呼び、いくつかのハイブランドのOEMも手掛けることになり、また2010年代に入ると日本のセレクトショップでも取り扱いが始まり、私達にも馴染みのブランドとなっていきました。
ハンドソーンウェルト製法
ジャランスリワヤを語る上で外せないのがハンドソーンウェルト製法です。
まずはハンドソーンウェルトとはなんぞやという話ですが、簡単に言えば手縫いのグッドイヤーウェルト製法です。
いまでは本格紳士靴の代名詞のグッドイヤーウェルト製法ですが、電気や機械がない時代から二重に縫い付ける製法(ウェルト製法)は手縫いにより存在していました。
つまりハンドソーンウェルト製法はグッドイヤーウェルト製法の原型ということですね。ちなみに機械によるウェルト製法を確立させた人がグッドイヤーさんという方だったため、その名前が残っているそうです。
機械より手縫いの方が手間とコストがかかることは誰にでも理解できることですが、手縫いであることに何かメリットがあるのでしょうか?
①ソールの返りがよくなる
グッドイヤーウェルト製法ではリブという素材が使われていますが、ハンドソーンウェルト製法ではリブが省かれるため、ソールの返りがよく足なじみも比較的に早いといわれています。
参照;https://www.union-royal.com/hpgen/HPB/entries/5.html
②ラスト本来のシルエットにより近づく
一縫いずつ職人の手によってきつく締めつけられ、また作業時間が長くなり結果としてラスト(木型)が入る時間も長くなるため、ラスト本来のシルエットにより近づけることができます。
ハンドソーンウェルト製法を現在でも取り入れている既成靴ブランドは限られており、国内の有名どころではユニオンインペリアルの上位グレードでのみ採用されているようです。
また、ジャランスリワヤでは最後のアウトソールのみ機械で縫い付けているので、「九分仕立て 」のハンドソーンウェルト製法となります。
デュプイ社製レザー
デュプイ社はフランスの名門タンナーで、エルメスやジョンロブ、JMウエストンといった超一流のレザーブランドに革を卸していることで知られています。世界最高峰のタンナーと称しても差し支えないでしょう。
ジャランスリワヤのアッパー素材にはそのデュプイ社と、デュプイ社から独立したアノネイ社製の高品質なレザーが使われています。
コインローファー「98589」
少し遠回りになりましたが、本題のコインローファー「98589」をご紹介いたします。
デザイン
革靴好きの方なら少し見ただけでお気づきかもしれませんが、このローファーの見た目はJMウエストンの傑作ローファー「180 シグニチャーローファー」とそっくりです。
どれくら似ているかということで、僭越ながらJMウエストン公式より画像を参照して、私のジャランスリワヤ「98589」と比較してみましょう。
参照;https://jmweston.jp/114110118010.html
◆ジャランスリワヤ「98589」
◆ジャランスリワヤ「98589」
◆ジャランスリワヤ「98589」
頑張って同じような角度で撮影しましたが、あらためて似ていますね。似ているというか、もはやほぼ同じでしょう。
ぽてっと丸みのあるフォルムもそうですが、サドル(アッパーの甲部分の装飾)なんてそのまんまですねw
名品180的なローファーは世に多数存在しますが、ここまで清々しいフォロワーはいないかもしれません。パクりと言われても致し方なしです。
そのことをどう考えるかは人それぞれですが、ポジティブに捉えれば、それだけ似ているのであればデザインとしては間違いなく完成されているということでしょうか。
アッパー
前述のとおり、ジャランスリワヤでは名門タンナーのデュプイ社・アノネイ社のレザーが使われています。
このモデルで使用されるアッパーの素材はカーフ(生後3~6ヶ月の雄仔牛の革)です。
購入後約3年の間に結構な頻度かつ、割と雑に履いてきましたが、今でも艶やかな質感を保っています。
インソール
ブランドの特徴でもありますがインソールは経年により大きく沈み込みます。
インソールの沈み込みは本格紳士靴の代名詞「グッドイヤーウェルト製法」の特徴でもありますが、ジャランスリワヤのインソールの沈み込みは私が所有するどの靴より変化が大きいと感じました。
ただ謎なのは、ジャランスリワヤが採用するハンドソーンウェルト製法は一般的に沈み込みは少ないと言われていることです。
というのも、ハンドソーンウェルト製法はグッドイヤーウェルト製法と比べてその構造上、インソールの下にある詰め物(コルク)が少なくて済み、沈み込みも比較的小さい(=沈み込みすぎない)と一般的に言われていますが、ジャランスリワヤのインソールはガッツリ沈み込みます。
「コルクの量が少なくて済む」というだけであって、実際にはかなりの量のコルクが使用されているのでしょう。分解したわけではないので推測ですが。
沈み込めば何でも良いというワケではありませんが、購入時にかなりのタイトフィットを選んだので、大きく沈み込んだ結果今では素晴らしい履き心地となりました。
ハンドソーンウェルト製法の利点を生かせていないような気もしますが、私にとっては結果オーライでした。
アウトソール
私の所有するインラインモデルはレザーソールとなっていますが、セレクトショップ別注品ではラバーソールのモデルもよく見かけます。
トゥスチールなどの加工はしていませんが、目立つほどのつま先の削れは発生しませんでした。
残念なポイント
180ライクな見た目も、私の足型にフィットした抜群の履き心地も気に入っているのですが、ここまで感じた唯一の残念なポイントは履き始めて半年程度で発生したモカ割れです。
モカ割れ自体この手のローファーやUチップシューズの宿命のようなところもありますが、ジョンロブやJMウエストンのモカは割れにくいという噂もあるので、そこは作り込みの甘さによる影響もあるかもしれません。
まぁ、それより私の取り扱いの悪さに起因してそうですが(笑)
早々にモカは割れてしまいましたが、アロンアルファで接着させるというパワープレイで処置して、今に至るまで割れ目は悪化することはなく、そこまで目立つこともありません。
「98589」のサイズ感
ジャランスリワヤのローファー専用ラスト「18045」が使用されています。
横幅
ジャランスリワヤではワイズを選択することができませんが、海外ブランドにありがちな細すぎるシルエットではないので、幅広な私たち日本人が足の縦軸を基準にサイズを選んでも横幅に対してそこまで違和感はないはずです。
甲の高さ
「ローファーは甲で履く」と言われるように、つま先や踵に多少余裕があっても足の甲さえバシッと決まれば何とかなります。
ローファー選びに重要な甲の高さですが、ジャランスリワヤのローファーはかなり低めに設計されています。ただ前述のとおりインソールの沈み込みが大きいので、購入時は「靴ベラを使えばなんとか足を入れられるが、甲が締め付けられて長時間は履いていられない」ぐらいの感覚を目安にしたら良いかと思います。
想像以上にインソールが沈み込むので、最初に甲の高さをジャストに合わせると、半年もすればゆるゆるになるはずです。
ヒールカップ
日本人の踵は西洋人と比べると小さめなので、ローファー選びの際に気になるポイントです。
写真の通りヒールカップは小さくはありません。下の写真のG.H.BASSのヒールカップは小ぶりなので、比べると分かりやすいですかね。
といえども、多少踵が浮く感覚はありますが全く許容範囲内です。海外ブランドにはもっとヒールカップが大きいローファーはたくさんありますからね。
タイトフィットがおすすめ
当たり前の事ですが、ローファーは紐靴と違いサイズ調整が効かないので、フィッティングがよりシビアになります。
革が伸びることとインソールが沈むことを考慮するとタイトフィットが基本です。
足のサイズは実寸で約25cm、コンバースのチャックテイラーは26.0cmがジャストフィットの私は、春夏に薄手のフットカバーを履いての使用を想定して、このローファーのサイズは6½を選びました。
最初のうちはまともに履けず、タン裏に血を滲ませたこともありましたが、今ではもうハーフサイズ下げれたかなと思う程です。
フィッティングに関する考え方は人それぞれでしょうが、長い目で見るならばローファーはギリギリまでタイトフィットで攻めることをおすすめします。最初は近場で慣らしていけば、私みたいな出血するようなことはありませんので。
21年SSよりリニューアル
実はこのコインローファーは今シーズンより、リニューアルされました。型番も従来の「98589」から「98998」に変更となっています。
使用されるラストは変わっていないませんので着用感に大きな変更はないと思いますが、ヒールカップをやや小さめに変更されてるみたいです。少しだけ気になっていた踵の抜けは解消されているかもしれません。
また、見て取れる変更点としてはサドルの両端のステッチが無くなっています。少しのっぺりとした印象になるので、ここに関しては前の方が良かったかなと個人的には思いました。
98998 / BLACK (LEATHER SOLE) | MEN | JALAN SRIWIJAYA(ジャラン スリウァヤ)OFFICIAL ONLINE STORE
また、現時点では店頭で旧モデルも混在しているので、ジャランスリワヤのコインローファーを検討されている方は、型番まで確認してみてください。
本当にコスパが優れているのか!?
私がこのローファーを購入した約3年前は正規で30,000円を切っていたと記憶していますが、現行品は35,200円(税込)と徐々に価格が上昇しており、他モデルも同様です。
その点を踏まえてジャヤランスリワヤのコストパフォーマンスについて考えてみます。
ハンドソーンウェルト製法
記事内で何度も出てきた言葉ですが、この製法の利点をあらためて振り返ると以下の3点です。
①ソールの返りがよく履きやすい
リブという素材が省略されことで、ソールの返りがよくなりある程度早い段階で軽快に履くことができる。
②コルクが少なくて済む
リブがないことでその構造上、内蔵物のコルクを必要最低限に抑えて、その分インソールの革を厚くすることができる。
③ラスト本来のシルエットにより近づく
一縫いずつ職人の手によってきつく締めつけられ、また作業時間が長くなり結果としてラスト(木型)が入る時間も長くなるため、ラスト本来のシルエットにより近づけることができる。
②③については不明な点もありますが、ソールの返りの良さはローファーにとって大きな利点でもあり、実際にこのローファーでもそのことを実感しています。
ハンドソーンウェルト製法は手間がかかるので、一部のハイエンドブランドとビスポーク(フルオーダー)以外ではあまり見られない製法です。
ジャランスリワヤの価格帯でこの製法が採用されているのは、やはり驚異的なのではないでしょうか。
革質
ジャランスリワヤの謳い文句としてエルメスやジョンロブ、JMウエストンと同じタンナーのレザーを使用していることが大々的にアピールされていることをよく目にします。
ジャランスリワヤがデュプイ社製のレザーを使用していることは事実のようですが、当然グレードが違います。
参照;https://www.beams.co.jp/item/beamsf/shoes/21320205778/?color=19
再びJMウエストンの「180 シグニチャーローファー」を比較に持ち出しますが、キメが細かく、透き通るような光沢感は素人目から見ても格の違いを感じさせられます。
そもそも、デュプイ社は現在エルメスの傘下にあり、エルメス本体は当然として、エルメス資本が入っているジョンロブやJMウエストンへ1級品の革は優先的に納品されていることは簡単に想像できます。またデュプイ社製レザーを使用する一流ブランドは数多く存在します。であればジャランスリワヤに流れてくるレザーは2級品・3級品といったところでしょう。
だからと言ってジャランスリワヤの革質が悪いわけではありません。同価格帯のリーガルやユニオンインペリアル、コールハーンといったところと比較すると質の良さは際立っています。もちろんグレードやモデルにもよりますが。
縫製技術
参照;http://shop.jalansriwijaya.com/html/page1.html
インドネシアの工場で一つ一つ手縫いで仕上げられていますが、所々に縫製の粗さは見られます。これに関しては価格相応といった感じでしょうか。
関税
当たり前のことですが、海外製造の物を輸入すると関税が掛けられます。革靴の場合は大体30%程度だそうで、当然この関税は販売価格にも反映されます。30%って結構デカいですね…
そんな中、日本とインドネシアの両国間では経済協定が結ばれているため関税も低く抑えられています。関税の低さもリーズナブルな価格に貢献しているのでしょう。
修理
ハンドソーンウェルト製法もグッドイヤーウェルト製法同様にソールを交換しながら長く履くことができる作りとなっています。
ハンドソーンウェルト製法自体が珍しいので、修理屋さんによっては対応していないそうなので、メーカー修理が安心です。
ただ、公式HPによるとオールソールの費用が約2万円とややお高め。本体が3万円程度で買った物なので、2万円出して修理するかと言えばちょっと考えてしまいますね。
一般の修理屋さんで探せば1万ちょっとで対応してくれるところもありますが、せっかうなら純正レザーソールにしたいところ。
結論
①3万円代でハンドソーンウェルト製法の採用は驚異的。
②革質がエルメスやジョンロブと同等なワケはないが、同価格帯より上質。
③縫製は価格相応。所々に粗さもある。
④関税率が低いのでお得感はある。
⑤公式の修理費用はそこそこ高い。
あたかも一流ブランドの革靴と同程度のクオリティーと誇張している広告も見かけますが、さすがにそれは無理があるでしょう。
ただ「この靴は5万円だよ」と言われれば、思わず「そんなもんだよね!」と同意したくなる程度のクオリティーではあると感じています。
いずれにせよ、3万円代としては間違いなくコスパは優れてますが、今後も価格の高騰が続くようであれば「コスパ優等生」の称号は剥奪すべきということが、今のところの私の意見です。
コーディネート
シンプルな黒のコインローファーはあらゆるカジュアルファッションで活躍してくれます。強いて言えば小ぶりでボリュームの少ないフォルムなので、極端なワイドパンツに合わせるのは難しいかもしれませんが、それ以外でミスマッチになるイメージが私にはありません。
基本的に何でも合い、コーディネート例を挙げてもキリがないので、正反対の2つをご紹介します。
白T×デニム×コインローファー
Tシャツ:ユニクロ
デニムパンツ:A.P.C
靴:ジャランスリワヤ
時計:オメガ
最もシンプル&カジュアルな白Tとデニムの組み合わせも、スニーカーではなくローファーを合せると品格がプラスされた気がしませんか!?
私自身はこういう格好はほとんどしませんが、たまには良いかもしれませんね。
ジャケット×スラックス×コインローファー
ジャケット:アーバンリサーチ
Tシャツ:ナノ・ユニバース
スラックス:エディフィス
靴:ジャランスリワヤ
時計:オメガ
過去記事からの引用です。
テーラードジャケットとスラックスがどちらともドレス色が強いアイテムなので、足元をスニーカーにしてバランスを取りたくなるところですが、ソックスをフットカバーにしてローファーを履くと足元の肌の露出が増え、軽やかでカジュアルな雰囲気がドレス要素を中和して、ちょうど良い街着に落とし込んでくれます。
ローファーはドレスアップにもカジュアルダウンにも使える万能プレイヤーです。
ジャランスリワヤからもネイビーやブラウンのローファーがラインナップされていますが、コーディネートの汎用性を考えるとまずは黒を揃えたいですね。
まとめ
ここ数日、私生活と仕事で忙しくしていたのでブログの更新が滞っていましたが、その反動でいざ書き始めると予想以上のボリュームの記事になってしまいました。
ジャランスリワヤの靴は今回紹介のコインローファーを含め、現在3足所有しています。なんだかんだ言われることも多いですが、「お値段以上」の優良ブランドというのが私の認識です。他の2足も機会があればご紹介します。
長くなりましたが今回は以上です。