トラッドマンに憧れて

自分なりのトラッドスタイルを模索する30代のリアルな服・靴・時計etc…について

ややこしい!?マッキントッシュにまつわる4ブランドの違いをまとめてみた。

前回の記事ではマッキントッシュロンドンのステンカラ―コートをご紹介しました。その際にマッキントッシュに関連するブランドについて色々と調べていましたが、それぞれの関係が実にややこしくて、話が長くなりそうなので、今回別記事として取り上げていこうと思います。

 

【関連記事】

tradman-dc.com

 

 

各ブランドの成り立ちと特徴を解説

f:id:dacchi37:20211022214403j:plain

ここではマッキントッシュ、トラディショナルウェザーウェア、マッキントッシュフィロソフィー、マッキントッシュロンドンのそれぞれがブランドとして誕生した背景と展開しているアイテムの特徴をご紹介します。また価格帯の比較対象として各ブランドで人気が高いコットンのステンカラーコートを参考にしていきたいと思います。

※価格は2022年1月現在の公式オンラインショップを参照

 

マッキントッシュ

f:id:dacchi37:20220118131840j:plain

参照:マッキントッシュ 公式オンラインストア | MACKINTOSH

 

単純にマッキントッシュと呼ぶ場合にはここを指す本家本元。「雨の国」とも表現されるイギリスは、年間降水量はそこまで多くはないものの、1年を通してどんよりとした曇り空が広がり、小雨や霧に見舞われることが頻繁にあるそうです。そのため、わざわざ傘を差さずとも雨水を凌げるレインコートがイギリスで好まれてきたとうい背景があります。そして、そのレインコートの歴史は1823年にスコットランドの化学者であるチャールズ・マッキントッシュが2枚の生地を溶かしたゴムで溶接して防水性を高めたマッキントッシュクロスを発明したことに始まりました。その防水布を使用したレインコートはイギリス中で流行して、現在に通じるブランドとしての「マッキントッシュ」は1830年に創業。バーバリー(1856年創業)、アクアスキュータム(1851年創業)と共に英国3大コートブランドの一つと数えられ、その中でも最も長い歴史を持っています。

 

日本では1998年からアパレル商社の八木通商が独占輸入販売権を取得して事業を展開。基本的には直営店を持たず、全国のセレクトショップマッキントッシュの製品が取り扱われてきましたが、2012年には世界で2番目の旗艦店(直営店)を東京の南青山にオープンしています。

 

またマッキントッシュは創業以来、アウター製造一筋にこだわってきましたが、2015年から方針を転換して、ニットやパンツ、小物なども展開するトータルブランドへと変貌を遂げています。

 

◆ダンケルド(RAINTEC)

f:id:dacchi37:20220118145151j:plain

参照:DUNKELD SINGLE BREASTED COAT WITH LINER FAWN | GM-1001FD | MACKINTOSH

【価格:149,600円】

マッキントッシュといえばダンケルド。そしてダンケルドといえば、もちろんゴム引きなわけですが、ゴム引きのモデルだと他の3ブランドでは取り扱いがなく、価格も一気に引き上がって(約18万)比較にならないので、ゴムの代わりに透湿防水フィルムを挟んだ機能性素材・RAINTECを使用したモデルを選択。その取扱いやすさから最近はゴム引きと並んで人気を集める新定番となっています。

 

トラディショナルウェザーウェア

f:id:dacchi37:20220118132133j:plain

参照:Traditional Weatherwear(トラディショナル ウェザーウェア) 公式通販オンラインストア (tww-uk.com)

 

英国マッキントッシュ社の旧名である「トラディショナルウェザーウェア」を復活させて1974年に創業。今でこそマッキントッシュセカンドラインという立ち位置ですが、当初は区別がはっきりしていたわけではなく、日本のセレクトショップビームスでダンケルドの取り扱いが始まった頃は、トラディショナルウェザーウェアのブランドタグが付いていたそうです。その後一時期休止期間も挟みましたが、2006年に再開。翌2007年にはマッキントッシュ同様に八木通商を介して日本進出を果たします。

 

トラディショナルウェザーウェアの十八番といえばキルティングジャケットであることからも分かるように、マッキントッシュとは価格帯だけではなく得意としているアイテムが異なります。単なるトップラインの廉価版というわけではないのです。マッキントッシュ同様に現在ではアウター以外にも幅広く展開していますが、カットソーやパーカーなどもラインナップしているように、伝統的な英国の雰囲気を感じさせながらより幅広い層をターゲットにしています。

 

取り扱いは全国のセレクトショップや百貨店の他に、直営店を国内に7店舗構えるなどマッキントッシュより身近で手にすることが出来ます。

 

◆アールハム(STORM SEAL)

f:id:dacchi37:20220118153722j:plain

参照:【STORM SEAL】EARLHAM with LINER アールハム ウィズ ライナー|

【価格:79,200円】

どうしてもキルティングジャケットのイメージが先行するトラディショナルウェザーウェアですが、ステンカラーコートのアールハムも定番アイテムの1つ。ダンケルドと違い肩が落ちたラグランスリーブが採用され、着丈も長めであることが特徴です。素材には先程挙げたダンケルド同様に透湿防水フィルムを挟んだ生地を使用。袖口や裾にはゴム引きコートのゴムテープのようなサンテープを着圧するなど、オリジナルへの敬意を感じます。また、機能性素材ではない普通のコットン生地で、ライナーも付いていないモデルであれば、4万円程度で購入可能となかなかフレンドリーな価格となっています。

 

マッキントッシュフィロソフィー

f:id:dacchi37:20220118131831j:plain

参照:【公式】MACKINTOSH PHILOSOPHY(マッキントッシュ フィロソフィー)公式オンラインストア (mackintosh-philosophy.com)

 

三陽商会によって2007年に開始した日本のライセンスブランド。「フィロソフィー=哲学」という名称が表すように、マッキントッシュの精神を受け継ぎながらも、より時代性を反映したアイテムが揃っています。

 

本家マッキントッシュやトラディショナルウェザーウェアに先立ってトータルコレクションを展開したブランドで、小物を含めた取り扱いアイテム数はファミリーブランドの中でも隋一です。

 

幅広いアイテムが揃う中で、特に人気を集めているのが「トロッター」シリーズ。自宅で洗濯できるスーツや、アイロンいらずのシャツなど、マッキントッシュから受け継いだトラッドな雰囲気を纏いながらも、本家では決して真似できないような柔軟な発想で、現代のビジネスマンから支持されています。

 

店舗数の多さや価格の面を含め、4つの中でも最も親しみやすいブランドと言えるでしょう。

 

ウェリントン(コットンボンディング)

f:id:dacchi37:20220118161043j:plain

参照:コート - MEN - コットンボンディング WELLINGTON - 【公式】MACKINTOSH PHILOSOPHY(マッキントッシュ フィロソフィー)公式オンラインストア (mackintosh-philosophy.com)
【価格:79,200円】

ブランドを代表するシンプルなステンカラーコートのウェリントン。こちらも機能性フィルムを挟み込んだ生地を使用しています。ライナーには全面にハウスチェックがほどこされていますが、裏地は無地と冬と春で別々の顔を楽しめそうですね。「機能性素材+ライナー付き」と同じ条件のトラディショナルウェザーウェア・アールハムと全く同じ金額というのは偶然でしょうか。

 

マッキントッシュロンドン

f:id:dacchi37:20220118131836j:plain

参照:MACKINTOSH LONDON(マッキントッシュ ロンドン)公式オンラインストア (mackintosh-london.com)

マッキントッシュフィロソフィー同様に三陽商会が展開するライセンスブランド。40年以上に渡り三陽商会を支えてきたバーバリーロンドン」のライセンス契約の終了に伴い、同社の新たな中核となるべく2015年にスタート。ということは、マッキントッシュの日本版セカンドラインであるはずフィロソフィーの方が先に誕生していたことになります。ややこしい。

 

先述の通り、バーバリーロンドンからの流れを汲むマッキントッシュロンドンですが、バーバリーの日本版セカンドラインとして存在していたバーバリー・ブラック/ブルーレーベルは、マッキントッシュフィロソフィーではなく、それぞれ三陽商会のオリジナルブランドである、ブラック/ブルーレーベル・クレストブリッジへと引き継がれました。そのため、ロンドンとフィロソフィーは血筋的には繋がっていないので、同じ会社でマッキントッシュの名を冠しているにも関わらず、弟分のフィロソフィーの方が歴史が長いという逆転現象が発生しているのです。

 

個人的にさらにややこしいと感じるのは、「ロンドン」というネーミング。マッキントッシュロンドンの先代にあたるバーバリーロンドンも同じく三陽商会のライセンスブランドですが、実は英国バーバリーのカジュアルラインとしても同名のブランドが存在していました。要するに当時は英国本家版と日本ライセンス版それぞれのバーバリーロンドンが混在していたのです。一方でマッキントッシュロンドンという名は三陽商会が展開するライセンスブランドだけです。ちなみにバーバリーロンドンはブランドタグがネイビーならライセンス版、ベージュなら英国版となるので古着屋で見かける機会があれば注視してみてください。

 

ついでに3大コートブランドの残り1つのアクアスキュータムがブランドタグや店舗の看板に「Aquascutum London(若しくはof London)」と表記しているのもややこしい。まぁ、これは完全に難癖をつけているだけなんですが、アクアスキュータムの場合はライセンス品ではなく本国版です。

f:id:dacchi37:20220119111850p:plain

参照:Aquascutum アクアスキュータム

 

ここまでマッキントッシュロンドンというネーミングが分かりにくいぞという話をしましたが、何を隠そと私自身、数年前まで百貨店にあるマッキントッシュロンドンが英国マッキントッシュと勘違いしていたので、くどくどとこんなこと書きました。失礼。

 

本題に戻すと、マッキントッシュロンドンは三陽商会が展開するマッキントッシュ関連のトップラインという位置づけとなっています。そのため価格帯も英国本家との差があまりなく、コートやスーツなら10~15万円、ニットなら3~4万円がボリュームゾーンとなり、それに比例して客層も高めで、三陽商会側からのアナウンスによるとメインターゲットは45歳以上の男女とのこと。フィロソフィーの方は若年層を含むより幅広い層へと訴求しているので、三陽商会内での棲み分けはしっかりと出来ているみたいですね。

 

◆ダンケルドML(コットンギャバジン)

f:id:dacchi37:20220118163711j:plain

参照:【DUNKELD ML】ギャバジンステンカラーコート - MACKINTOSH LONDON(マッキントッシュ ロンドン)公式オンラインストア (mackintosh-london.com)
【価格:105,600円】

ダンケルドの名を冠したステンカラーコート。私が所有している物はこれの2020年モデルです。MLの記号はブランド名のイニシャルでしょうか。見た目だけならオリジナルと瓜二つ。他の3ブランドで挙げたコートと違い、機能性素材が使われていないコットンギャバジンの生地を使用しています。少し比較し難くなりますが、マッキントッシュロンドンにはコットンの機能性素材モデルがないのでご了承ください。一方でウール素材のモデルが充実してるあたりブランドの性格が現れていますね。

 

八木通商と三陽商会の関係

f:id:dacchi37:20210924221201j:plain

ここまでの内容で日本での展開はマッキントッシュとトラディショナルウェザーウェアが八木通商で、マッキントッシュフィロソフィーとマッキントッシュロンドンは三陽商会の取扱いであることがお分かりいただけたかと思います。では同じマッキントッシュの名を掲げる商品を日本で販売しているこの2社はライバル関係にあるのかというと、それはどうも違うみたいですよ。

 

というのも、実は英国マッキントッシュは2007年から八木通商の子会社となっているのです。つまり、三陽商会マッキントッシュの親である八木通商の許可を得てライセンス商品を製造・販売しています。当然敵対関係にはありません。

 

マッキントッシュのライセンスブランドの存在は、三陽商会側から見たメリットは明らかですが、八木通商としての利点はどこにあるのでしょうか?

 

もちろん三陽商会から支払われるライセンス料というダイレクトな恩恵もありますが、八木通商の狙いは目先の小金ではなく、個人的にはもっと違う目論見があるのではないかと考えています。

 

高級ダウンでお馴染みの「モンクレール」を日本に持ち込み人気ブランドへと育て上げた八木通商は、マッキントッシュでも一定の成功を収めていますが、それはあくまでも服好きの間での話。

 

モンクレールのダウンってかなり高額なはずなのに、冬になるとあのロゴが付いたダウンをよく見かけますよね。それはコアな服好きだけでない一般層に認知されて憧れの対象になっている証拠だと思います。三陽商会が失ったバーバリーだって同じです。

 

それらに比べるとマッキントッシュの一般的な認知度はまだまだ。多くの人はマッキントッシュと聞いてもピンとこないか、「あぁ、アップルのやつね」と言われるのが関の山でしょう。(ちなみに、あちらは「Macintosh」でスペル違い。)

 

八木通商としてもマッキントッシュのさらなる成功を収めるべく模索していたところに舞い込んできたのが三陽商会からのアプローチでした。日本においてバーバリーが特別な存在となり得たのは、三陽商会のライセンス戦略で広大な販路と、より幅広い客層を獲得したことが大きく貢献したというの間違いありません。マッキントッシュの成長モデルはバーバリー。そう考えると八木通商側から見ても三陽商会に手を貸すメリットはあるのではないでしょうか。八木通商が英国マッキントッシュを子会社化した2007年に早速マッキントッシュフィロソフィーを立ち上げたあたりその意気込みを感じますね。一方でゴム引きコートの製造は許可していないように、真にコアな部分は守り続け、ブランドとしての独自性・優位性はしっかりと確保されており、三陽商会を利用しても一線は引くという姿勢も見て取れます。

 

マッキントッシュバーバリーになれるのか?」これは八木通商と三陽商会の共通する課題です。もはやハイブランドの域に達しつつあるバーバリーの後を追おうというのは、古き良きマッキントッシュを愛してる方からすれば残念なところもあるでしょうが、旗艦店の登場やトータルブランドへの転向には、その兆しが十分に感じ取れます。これから両社が展開するマッキントッシュの動向に注目ですね。

 

まとめ

前回の記事に付属する番外編なので簡単にまとめるつもりでしたが、気が付けば本編超えの熱量になってしまいました。後半は私的な考察が多分に入っているのであしからず。

 

三陽商会に関してはコロナ禍と百貨店ビジネスの衰退で、業績不振を知らせる暗いニュースばかり見かけますが、確かな技術を持った日本を代表する老舗アパレルメーカーなので、なんとか耐え忍んで欲しいところです。

 

ライセンスビジネスを否定するつもりは全くありませんが、バーバリーの時のように現在協力関係にある八木通商からいつ手を切られるか分からないのも事実です。100年コートしかり今後は自社ブランドの育成に注力必要があるのは間違いないのでしょうが、そう簡単にいかないのがブランドビジネスの難しいところ。大きな会社なので「良いモノさえ作っていれば誰かが分かってくれる」なんてレベルじゃどうにもならないんですよね。一消費者でしかない私には陰ながら見守ることしかできませんが、今後も三陽商会を応援しています。

 

今回は以上です。