
先日、部屋を整理していると10年近く前に購入した高級時計のムック本が出てきたので、懐かしく思いしばらく眺めていたのですが、やはり現在との価格差に驚かされました。
このご時世なので、服にしろ靴にしろ10年も経てば軒並み値上がっていますが、時計業界はまさにレベルが違います。特に並行価格ベースだと当時の倍以上なんてことも珍しくありません。
一方で最近はヴィンテージウォッチにも興味を持ち始め、専門のYouTubeチャンネルをよく視聴していますが、そちらはそちらで人気モデルの価格は高騰しており、そして何より状態の見極めやメンテナンスについてなど求められる知識も多く、相変わらず敷居の高さを感じています。
そこで今回の記事では現行や数世代前ではなく、さらにはヴィンテージでもない90年代の時計が意外と狙い目だぞというお話です。どうぞご覧ください。
90年代の時計が狙い目な理由

価格
冒頭でも述べたように、ここ数年で高級時計は著しい価格高騰の様相を呈しています。いくつかの要因はありますが、特に大きな影響を与えている理由として、スイス国内の人件費と為替レートの円安が挙げられます。
ご存じの通り、時計製造は伝統的にスイスのお家芸です。国産のグランドセイコーなどを除くと高級時計の生産はほぼスイスに依存することになります。そしてそのスイスは人件費が物凄く高い。ネットで調べてすぐ出てくる情報だと、2023年の平均年収は約10万5000ドル。現在のレートで換算すると約1600万円です。スイスでは職人の社会的地位が比較的に高いという話を聞いたことがあるので、高級時計ブランドに従事する時計職人もそれなりの給与を手にしている可能性が高いでしょう。当然その人件費は販売価格にも転嫁されます。
一方で為替の円安化の影響も凄まじい。10年前の2015年当時のドル/円レートは120円前後でしたが、ここ数年は150~160円あたりを推移しています。また、スイス・フラン/円レートだとさらに円安の傾向は進んでいるようです。人件費や原材料費の高騰もあり、スイス本国を含む西欧諸国でも価格上昇は避けることはできませんが、それが日本に渡ってくる際に、円安パワーでより大きな数字となって表れるわけなのです。そう考えると一見すると理不尽にも見える値上げも致し方ありません。
新品価格の上昇に釣られて、中古市場も高騰している状況が続いています。それは現行品に限らず数年前のモデルにまで影響しているようです。私が10年前に購入した1世代前のシーマスター ダイバー300Mが、当時の購入価格かそれ以上で取引されているのを見ると何とも言えない気持ちになります。
しかし、その影響を大きく受けているのも概ね20年前(2000年代中盤頃)のモデルまで。ロレックスなどは例外ですが、90年代ともなると一気に価格がこなれてきます。オメガやタグホイヤー、チューダーあたりであれば20万円以下でそれなりに状態の良い個体が探せば出てきます。(人気モデルは厳しいですが・・・)
【関連記事】
以前ブログでも紹介したデ・ヴィルもまさに90年代の個体で約15万円で購入しました。
私のような庶民からしたら10万・20万は当然安い買い物ではありませんが、1年間計画的に積み立てたら捻出できる、そんな金額ではないでしょうか。また、ブレゲやジャガールクルトといった憧れのブランドも90年代の個体であれば50~80万円程度が相場なので、少し背伸びしたら何とかなるかもしれませんね。
コンディション
当たり前の話ですが、製造から時間が経つほどにケース、盤面、そしてムーブメントの劣化は進んでいきます。70年代以前のヴィンテージとなるとそれなりのダメージが見られるものです。中身は別として、外見の経年変化は「味」として愛好家から好意的に受け取られる場合もありますが、私はきれいな状態に越したことはないと考えているので、できるだけコンディションの良い物を探します。
その点、90年代の個体は比較的にきれいな状態の個体が多い。いわゆる新品仕上げを施した物も多いのでしょうが、加工できれいになる程度には元の状態が良いということです。
それはヴィンテージ物と比べて単純に年代が浅いというのもありますが、日本で時計の中古市場が成熟したのが90年代以降なので、より良いコンディションを保ったまま手放すという文化がこの頃から幅広く根付いたのではと推測します。
サイズ感
私が90年代の時計を推しているのは絶妙なサイズ感にもあります。ひと昔前のデカアツブームは過ぎ去り、時計界でもクラシック回帰の波がきているようで、ケース径40mm以下(38mm前後)の時計が随分増えてきた印象です。ただ、私のような細腕民からしたまだデカい。華奢な手首に収まるにはもう少し小さい方がバランスが良いのです。
一方で70年代以前のヴィンテージは小ぶりな時計が多く揃っています。モデルや年代にもよりますが、ドレスウォッチだと30mm前後と現代ではなかなかお目にかからないレベルのサイズ感です。それはそれで品があって、個人的には好みではあるのですが、どうしてもちょっとした違和感を感じてしまいます。一見するとレディースウォッチです。
現行とヴィンテージ、その両方の間に位置する90年代はサイズ感もまさに中間的で、35mm前後とバランスが取れたケース径の時計が多く揃っています。いまでは当たり前の40mmオーバーもパネライとかじゃない限りほとんど見かけませんね。
素材
ヴィンテージと90年では素材使いにも違いが見られます。最も分かりやすいのは風防でしょうか。70年代以前はプラスチック風防が中心で、その独特の風合いを好む方も多くいるかと思いますが、傷が付きやすいのは私にとっては明確なデメリットです。私がヴィンテージに二の足を踏むの理由の1つはプラスチック風防にあったりします。その点では90年代に入ると一定の高級ブランドでは現在同様にサファイアガラスが主流となってくるので、見た目の高級感、そして何より防傷性能は格段に上がります。
その他ではケースやブレスレットに使われるステンレスについても高級素材とされる「316L」が広く一般的に時計で使われるようになったのもこの頃からだそうです。
90年代は1つの転換期となり、使われている素材の面では現代とはそこまで変わらないという点もヴィンテージとは異なる特徴となります。
空白の80年代
70年代以前をヴィンテージと定義して、90年代や近年(2000年以降)の時計と比較する形でここまで話を進めてきましたが、80年代に関してはあえて触れていません。理由は単純で、中古市場の弾数が極端に少ないからです。
セイコーが巻き起こしたいわゆるクォーツショックの影響で70年代後半頃から機械時計は駆逐され、頑なに作り続けたブランドはロレックスや雲上ブランドなどごく一部に限られていました。まさに機械式時計不毛の時代。80年代後半頃から徐々に復興の兆を見せるも、本格的に息を吹き返したのは90年代半ばに入ってからでした。
ほとんど製造されていなかったので、当然中古市場にも流通しないというわけです。長い間、私の生まれ年である1989年製の機械式時計を探しているものの、一向に良い物と出会ないのも仕方ないのかもしれません。なので代わりに年の近い90年代の時計に愛着が湧いています。
まとめ
比較的にこなれた価格、大きすぎず小さすぎない絶妙なサイズ感、現行とそこまで変わらない素材使いなど、ヴィンテージとはまた違った魅力の詰まった90年代の時計について述べてきました。
まだまだスポットライトが当たっていない存在だからこそ本当に狙い目だと思いますよ。特に予算の制約があるけど、そこそこ状態の良いクラシカルな時計を探している方。
こんなテーマをわざわざ取り上げたぐらいなので、少し前に90年代の時計を新しく手に入れました。次回の更新で紹介することになるかと思いますので、どうぞそちらもご覧ください。
今回は以上です。