ジャケットにデニムパンツを合わせた着こなしはカジュアルなジャケットスタイルの定番ですね。ドレスの象徴とカジュアルの象徴を組み合わせるので、休日の街着としてちょうどいいバランスになるという寸法です。
実際に私もその組み合わせに頼ることが多いのですが、どうもここ最近違和感を覚えるようになりました。というのも私が持っているジャケットはクラシカルな物が基本で、それに細身のデニムや野暮ったいデニムを合わせるとシルエットと雰囲気に差がつきすぎているように感じるのです。
まぁ、おそらく傍から見る分にはそこまでおかしくはないのでしょうが、こと洋服に関しては細かいところまで気になる性分なので、改めて「ジャケットに合うデニム」を探していました。
そこで選んだのが五十嵐トラウザーズの5Pデニムパンツ。五十嵐トラウザーズといえば日本でも数少ないパンツ専業のオーダーメーカーです。購入したのは既成モデルではありますが、以前からビスポークでジーンズを手掛けていた知見に基づくパターンはドレスパンツさながらの美しいシルエットを生み出し、やはり随所にはテーラーならではの技が散りばめられています。
ジーンズとしての体はなしているけど、いままで穿いてきたそれとは別物。そんな不思議な魅力を持つ一本をご紹介します。
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五十嵐トラウザーズについて
創業者の五十嵐 徹氏は大学在学中よりテーラリングの修行を開始し、2014年に世界的にも稀有なパンツ専業オーダーメーカーのIGARASHI TROUSERS(五十嵐トラウザーズ)を立ち上げます。
設立した当初は五十嵐氏の年齢がまだ若く、非常に珍しいパンツ専業ということもあって、周囲からは怪訝な目で見られることも多かったそうです。やはりテーラードの世界では主役はジャケット、パンツは脇役といいう認識が強かったのでしょう。
ただ、当時と比べビジネスカジュアルやクールビスが台頭したことでパンツ単品の需要が高まり、さらにはオーダー文化が以前より身近になったことも後押しして、パンツ専業で勝負する五十嵐トラウザーズは次第に注目を集めるようになりました。
たった一人で始めた工房も数名の従業員を雇うようになり、2018年には拠点を東京から山梨に移転して法人化。現在では年間2,000本以上ものトラウザーズを手掛けるだけではなく、コートやブルゾンなどのアウターを手掛けるビスポークブランド「Ignore(イグノア)」を展開しています。
ビスポークとパターンオーダーが本業の五十嵐トラウザーズですが、近年ではレディメイド(既成品)にも注力しています。オーダーメイドではなくとも今まで多くの顧客と向き合い、集積された情報に基づいて生み出された日本人の体形を知り尽くしたパターンは流石の一言。インポートブランドでしっくりきていない方なんかは是非試していただきたい。
既成ラインの商品は五十嵐トラウザーズの店舗やオンラインストアの他、お馴染みのビームスでも別注品として取り扱いがあるので、金銭的もしくは地理的にオーダーのハードルが高い方(かくいう私もそうですが・・・)はまずはレディメイドからというのも良いんじゃないでしょうか。
五十嵐トラウザーズの5Pデニムパンツをレビュー
概要
ドレスパンツを得意とする五十嵐トラウザーズですが、かねてより顧客の依頼を受けてビスポークでジーンズも手掛けており、数量限定で既成モデルも販売されていました。もちろんチェックはしていましたが、如何せん30本限定とのことだったので、マイサイズはすぐに完売。残念がっていたところに今年も発売されるとの知らせを受けて即購入した次第です。(購入自体は3月なので記事にするのがだいぶ遅れてます・・・)
基本的なところは旧モデルと同じかと思われまが、五十嵐トラウザーズの工房で職人より作られる「ATELIER MADE」ではなく協力工場に製造を依頼した「FACTORY MADE」のラインへと変更となっています。それによる違いまでは分かりかねますが、厳選した工場と提携を結んでいるとのことなので、クオリティに関しても折り紙つきです。一方で「ATELIER MADE」と違いある程度の量産が可能なようで、オンラインショップを覗くと発売から数ヶ月経過した現在でもフルサイズ在庫が揃っているのでまだまだ全然買えますよ。
このジーンズの特徴はやはりそのドレスパンツさながらの美しいシルエットです。
テーラードブランドがデニムパンツを手掛けること自体は珍しくありませんが、その場合デ二スラタイプかストレッチの効きまくったスリムパンツか、もしくは特筆することのない普通のジーンズ(別にリーバイスでいいじゃんみたいな)が多いように感じます。
その点このパンツは生地感やディテールにはこだわりが窺えるジーンズ然とした面構えをしていながら、シルエットは完全に五十嵐トラウザーズが得意とするクラシカルなものとなっており、細やかな箇所はテーラード仕様。なので当然ジャケットに合うわけなのです。
ビスポークテーラーが手掛けるからといって過度にドレスに寄りすぎることなく、それでいて本格派デニムともしっかり差別化されているバランス感が秀逸。そんなジャンルがあるのかは知りませんが「これぞテーラードジーンズ」といった感じですね。
ディテール
あらゆる季節で使い勝手の良い13.5オンスのデニム生地。コットン100%ではありますがナチュラルな伸縮性を感じられます。色味はやや黒成分が強いインディゴブルーで毛羽立ちは抑えめです。
いわゆるワンウォッシュ加工が施されていますが、一般的な製品洗いではなく、生地の段階で洗いをかけてある程度縮んだ状態で裁断・縫製を行っているので、購入後の洗濯で型崩れが比較的に起こりにくくなっています。
前開きはボタンフライ。第二ボタン以降は小ぶりなサイズとなっているので、開け閉めにストレスを感じずに済んでます。
アンティーク加工された真鍮製のドーナッツボタンは雰囲気がありますね。
以前のモデルではポケットのリベットが省かれていましたが、今年モデルから変更となっています。本来は補強目的であったリベットも今となっては飾りでしかないので、ドレスっぽくするなら別になくても良いのでしょうが、個人的にはやっぱりジーンズにはリベットがあって欲しいですね。ぶち抜きではみ出した生地も味わいがあります。
ステッチの色味は定番のオレンジやイエローではなくゴールド。深いインディゴブルーによく映えています。
袋布には真っ黒なコットン生地が使われており、それと同素材の布がウエスト周りにも貼られています。一般的なジーンズなら表と同じデニム生地になってる箇所ですが、タックインをしたシャツへの色移りやダメージを配慮しているのでしょうか。また、この画像では分かりにくいですが、ドレスススラックスのようにウエストを補正するための縫い代が確認できました。こういう細かいところを見るとテーラード仕様になっています。
ヨーク幅は狭めでバックポケットにはステッチデザインが入らない一見するとシンプルな後ろ姿ですが、その中で異彩を放っているのはやはりポケット両端に打ち込まれたリベットでしょう。いわゆる隠しリベットは本格ジーンズでたまに見かけるディテールですが、それよりも古典的な剥きだしリベットはかなり珍しく、私も実物は初めて見ました。
先程リベットがあった方が良いと書いたものの、バックポケットの剥きだしリベットとなれば見慣れていないこともあって若干の違和感を覚えます。また、リベットがジャケットの生地に引っかかるのではないかとの心配もあり、唯一購入を躊躇う懸念ポイントでした。五十嵐氏のこだわりなのかもしれませんが、流石にここは不要ではと感じてしまいます。
ただ、実際に手元に届いてしばらく経つとそのような違和感は消え、リベットの頭も潰されて丸みを帯びており、ジャケットの生地を干渉することもなさそうでひと安心です。ただ、革ソファーに腰掛ける時や、あまりないと思いますがフローリングに直で寝そべるような場合には少し注意が必要かもしれませんね。
ブランドネームが刻印されたパッチはウルトラスエード製。ウルトラスエードとは本革ではなくフェイクレザーの一種となるのですが、柔らかい手触りと美しい風合いは極めて本革と近い質感で、それでいて摩擦に強く色落ちもしにくい素材となっています。系列ブランド「Ignore(イグノア)」ではこの素材を用いたビスポークブルゾンが作られたりしているそうです。経年変化は期待できませんが、タフに使っても美しさを保つという観点では打ってつけですね。
裾をめくってみると生地耳が使用されていないことが確認できます。生地耳は本格派デニムの象徴と呼ばれたり、特有のアタリが生まれることでデニムマニアの方には特に好まれていますが、一方で生地のねじれが発生する原因となる場合もあります。そのため生地耳をあえて省くことでパタンナーが意図する本来のシルエットを維持しやすいようにしているのだそう。ジーンズらしさを追い求めつつも、真に重視するポイントは何なのかがよく分かるディテールです。
サイズ感とシルエット
身長173cm 体重65kg 標準体重の私が購入してのはサイズ46。デニムですがインチ表記ではありません。概ね30~31インチ、またはMサイズあたりをイメージしてください。
股上は深めでハイウエスト気味に穿くのが正解でしょう。柔らかな丸みを帯びたラインの腰周りには適度なゆとりがあり、膝から裾にかけては緩やかにテーパードがかかっています。きれいにストンと落ちる美しいシルエットと引っかかるような感触がない穿き心地は、これまで私が経験してきた他のデニムパンツとは全く異なります。このシルエットを維持するための裁断・縫製前のワンウォッシュであり、耳なしの生地なのです。
裾幅は約19cmと決して細くはないのですが、それでもすっきりと見えるのは「実寸よりも細く見える」という五十嵐トラウザーズならではのパターンの魔法ですね。あくまでも寸法上ではゆったりめなので、デニムなのに穿いてて楽なんですよ。
購入時点でスラックスのようにピシッとセンタープレスが入っていますが、このまま残すのも洗いざらしで消してしまうのもありでしょう。洗濯の度にアイロンでプレスするのはなんか違うので、とりあえずは軽く折り目を残す程度にしておこうかなと思います。
ヒップのホールド感もまずます。自分で穿いて言うのもアレですが、後ろ姿はむちゃくちゃきれいなんですよね。日本人の下半身の特徴(骨格・肉付き)を知り尽くした五十嵐トラウザーズだけあって、平均的な日本人体型の私には合っているのかもしれませんね。
コーディネート
ジャケット:RING JACKET(リングヂャケット)
パンツ:五十嵐トラウザーズ
シューズ:JALAN SRIWIJAWA (ジャランスリワヤ)
デニムに限らずですがジャケパンコーデを組む際に最も意識するのはシルエットの連続性です。特にジャケットの裾とデニムの渡りに隙間があると連続性が失われてチグハグな印象になってしまいます。その点ドレスパンツのようなシルエットのこのデニムは、クラシカルなジャケットと合わせてもまるでスーツの上下みたいに自然な繋がりを感じられます。
ジャケット:FIVE ONE(ファイブワン)
ニット:Alessandro Luppi(アレッサンドロルッピ)
パンツ:五十嵐トラウザーズ
シューズ:CROKETT&JONES(クロケット&ジョーンズ)
今年仕立てたジャケットとも合わせてみました。デニムの色味が深めなので若干トーンが合っていない気もしますが、これから色落ちが進むことで徐々に馴染んでくるでしょう。シルエットのバランスは間違いないですね。
まとめ
2年越しで手に入れた五十嵐トラウザーズの5Pデニムパンツをご紹介しました。
本文中でも述べましたが、カジュアルジーンズのフォーマットを使いながら、ビスポークブランドならではの知見と技が散りばめられて程よくドレスライクに仕上がっている点が気に入っています。
ただ、今のところはジャケット専用で考えています。デニムなんだからカジュアル全般で使えるだろと思われるかもしれませんし、実際に普通に使えるんですけど、突き詰めるとなデニムだって生地の風合いやシルエット、ざっくりとした雰囲気の違いでコーディネートに合う合わないがあるので、手持ちの他の物と使い分けていきたいですね。
今回は以上です。