トラッドマンに憧れて

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ビスポーク仕込みのハイクオリティ!五十嵐トラウザーズの既成スラックスをレビュー!

昨今のオーダーブームによって多くの専門店が登場しましたが、それら各々の特徴を語る際には、常にジャケットに焦点が当てられます。

 

「ここのジャケットは総毛芯で・・・」「あそこのジャケットは前肩で・・・」等々。

 

テーラードの世界ではいつだってジャケットが主役です。パンツが蔑ろにされているとまでは言いませんが、やはり二の次という印象は否めません。

 

そんな中、IGARASHI TROUSERS(五十嵐トラウザーズ)は世界でも稀有なパンツ専業のオーダーメーカーとして注目を集めています。

 

存在を知ったのは数年前。確か何かのYou Tubeチャンネルだったと思うのですが、その動画を見て興味を持ち、私も一度はオーダーしてみたいと思いながらも、現在の拠点は山梨県にあり、その他は東京に店舗を1つ構えているだけなので、地方在住の私には立地的なハードルが高く、半ば諦めかけていました。

 

ただ、実は五十嵐トラウザーズではレディメイド(既製品)も展開されています。生産数量が限られているので、迷っているうちにすぐに欠品してしまうのですが、今年はちゃんと確保しましたよ。

 

ビスクポークはもちろんのこと、パターンオーダーとも少し違うのでしょうが、今まで多くの顧客と向き合い、集積された情報に基づいて生み出された日本人の体形を知り尽くしたパターンはインポートブランドのそれとは一線を画しています。細部にまで趣向を凝らされた特別な一本をご紹介します。

 

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五十嵐トラウザーズについて

中心人物である五十嵐 徹氏は1987年生まれ、大学在学中よりテーラリングの修行を開始し、2014年に世界的にも稀有なパンツ専業オーダーメーカーのIGARASHI TROUSERS(五十嵐トラウザーズ)を創業します。

 

私から見たら五十嵐氏はほぼ同世代。経験がものを言うテーラードの世界で、年齢の近い方が自身のブランドを立ち上げ、高い評価を得ているということが、最初に興味を持ったきっかけでもありました。独立されたのが26~27歳ぐらいかと思いますが、その年齢の頃に自分が何をしていたかと考えると、ちょっと情けなくなります(笑)。

 

設立した当初は五十嵐氏の年齢がまだ若く、非常に珍しいパンツ専業ということもあって、周囲からは怪訝な目で見られることも多かったそうです。ただ、ジャケットよりも身に着けている時間がく長く、着用感にも大きな影響を与えるパンツの重要性を熟知し、オーダー専業というニッチな市場で勝負に出た五十嵐氏には先見の明がありました。

 

たった一人で始めた工房も現在では数名の従業員を雇い、年間2,000本以上ものトラウザーズを手掛け、業界内でも唯一無二の地位を確立しています。もちろん、その成功は単に隙間産業を狙っただけということではなく、テーラーとしての実力が備わってこそ成しえたもの。

 

五十嵐トラウザーズが手掛けるパンツは穿きやすさとシルエットの美しさを両立させていることに定評があります。ことドレスパンツにおいては身体にフィットしたスリムなシルエットが美しいとされますが、それはすなわち窮屈さにも直結するので、「穿きやすい」と「美しいシルエット」は本来簡単に両立できるものではありません。

 

しかし、これまで数多くの顧客と真摯に向き合い、下半身の骨格や肉付きなどを徹底的に研究して作られたパターンは相反する2つの両立を実現させるのです。そのことを五十嵐氏は「うちのパンツは実寸に対して細く見せることができる」と表現されています。確かにそれが可能であれば、美しいシルエットのパンツを無理なく穿くことができそうですね。

 

そんな五十嵐トラウザーズですが、冒頭でも触れた通り、関東(山梨、東京)を拠点に活動しているため、私のような地方在住者にとっては少し縁遠い存在に感じてしまいますが、定期的に全国各地でトランクショーが行われています。また数量は限られますが、レディメイド(既製品)という形でいくつかのセレクトショップで扱われることもありますので、まずはそれをもって五十嵐トラウザーズの世界を体感してみるというのも良いですね。まぁ、今回の私がまさにそうなんですけど。

 

ビームス F別注】五十嵐トラウザーズのフレスコ スラックスをレビュー

概要

今回購入したのはお馴染みビームスのドレスラインにあたるビームス F」が五十嵐トラウザーズに別注した既成モデル。

 

このシリーズは数年前から毎シーズン継続して展開されており、2プリーツのサイドアジャスターといったクラシカルなディテールや、ヒップにホールド感を持たせて、膝下からは緩やかなテーパードをかけたパターンは例年通り。毎年季節に応じて素材のバリエーションは複数用意されていますが、基本的な設計は継承されているようなので、今シーズンモデル(23SS)に限らず、ビームス別注の五十嵐トラウザーズに興味を持たれている方の参考にはなるかと思います。(一部のハンドメイドラインは所々仕様が異なります。)

春夏シーズンということで、トロピカルウールやコットンなど季節の定番素材が揃う中、今回はフレスコを選びました。そもそもフレスコとは単体の強撚糸をさらに束にしてまとめた糸で織られた生地のことで、一般的にはウールが用いられます。一本一本が非常に太い糸になるので、春夏向けとしてはヘビーウエイトで、しっかりとしたハリがある一方、織り目が粗く通気性に優れ、ザラついた質感は肌離れの良さにも繋がるため、伝統的な冷感素材として親しまれています。

 

無地のグレースラックスだと少しお堅い感じもしますが、シルエットやちょっとしたディテールに洒落た工夫が施されているので、ビジネスっぽくなりすぎず、ある意味カジュアルにも使いやすいかと思います。

 

ディテール

英国の名門ファブリックメーカー William Halstead(ウィリアム ハルステッド)社のフレスコ生地。ザラついた質感が特徴的で、画面越しでもその風合いが伝わるでしょうか。非常にハリ感の強い生地なので、シワが残りにくいというのもありがたい。

 

クラシカルな趣を印象付ける2プリーツとサイドアジャスター。プリーツを補強するために、わざわざ施された閂は他ではあまり見かけないディテールですね。それぞれのプリーツの開始位置をずらしていのにも何か意味があるのでしょう。

 

サイドアジャスターはこんな感じ。それなりに存在感があって私が好きなタイプ。

 

前開きは実用性を重視してジッパーフライ。ここにも少し珍しいギミックがあって、ジッパーのすぐ隣(写真中央付近)の普段見かけない位置にボタンが取り付けられているのが分かりますか?

 

実はこれ反対側のジッパー横にボタンホールがあって、ここにボタンを留めることでウエスト回りのホールド感をより高めるという効果があるのだそうです。うん、そう言われるとそんな気がします(笑)。

 

こだわりのポイントはサイドシームにも。ジャケットのラペルやスラックスのポケットなんかでよく見られるAMFステッチ(手縫い風のステッチ)がここにも施されています。サイドシームにAMFステッチを入れるなんてこと、それこそビスポークでもしない限りお目にかかれないような手の込みよう。生地と同化してほとんど目立たないのですが、微妙なニュアンスが異なってきます。まさに神は細部に宿るといった感じですかね。

 

ヒップポケットは右側のみというのは五十嵐トラウザーズの既成モデル全般で見られる仕様です。ポケットにはフラップどころかボタンも付きません。両側どちらとものヒップポケットがないということは基本的にはないので、極限までシンプルなデザインともいえますね。

 

生地を裏返すと太腿から膝にかけて、滑らかなキュプラ製の裏地が付けられていることが確認されます。冷感素材のフレスコの特性を活かすという意味では微妙なところですが、耐久性を考慮すればやはり必要なディテールだと思います。

 

裾幅は約20cmと決して細くはありません。その数字だけ見ると少し太いかなと感じるところですが、実際に穿くとそうでもないというのが五十嵐トラウザーズの魔法。詳しくは改めて次項にて。裾処理はいつも通り、ダブルの4.5cmでお願いしています。

 

サイズ感とシルエット

身長173cm体重65㎏標準体型の私は、スラックスならどのブランドでも大抵サイズ46を穿いているのですが、今回は1つ上のサイズ48を選びました。

 

というのも、このモデルはヒップにホールド感を持たせるというコンセプトなので、ヒップ回りは比較的にコンパクトに設定されていて、私の場合サイズ46でも一応穿けるのですが、お尻の形がはっきりと出すぎているのが気になり、ワンサイズ上げています。その代わりウエストが少しだけ緩めになりますが、アジャスターを絞れば気にならない範疇です。

 

お店で試着する際、またはオンラインショップで購入する際はエストよりもヒップで合わせるイメージを持たれるとよろしいかと思います。

 

さて、肝心なシルエットについて。まず前提として実寸で渡り幅が約33㎝、裾幅が約20cmとなっています。現代の基準だとワイドシルエットとまではいかなくとも、ドレスパンツとしては、まぁまぁ太い部類に入るかと思います。数字上では。

 

しかし、どうでしょうか。その数字上の太さを感じさせないスマートのシルエットに見えるかと思います。五十嵐氏の仰る「実寸に対して細く見せることができる」とはこういうことなのかと実感させられますね。

 

膝下から裾にかけてのテーパードは控えめ。兎にも角にもテーパードな時代だからこそ、このクラシカルなシルエットが際立ちます。そして、その雰囲気を崩さぬように股下はいつもより少しだけ長めに設定しました。

 

立体感のある腰周り。ここが動きやすさの秘訣ですかね。横からのシルエットも美しい。

 

ホールド感が高く安定した穿き心地を生むヒップ。やっぱりサイズを1つ上げて正解だったと思います。不自然なシワもなくなかなか良い感じです。

 

コーディネート

ジャケット:RING JACKET(リングヂャケット)

シャツ:RING JACKET(リングヂャケット)

パンツ:IGARASHI TROUSERS(五十嵐トラウザーズ)

シューズ:CROKETT&JONES(クロケット&ジョーンズ)

 

王道のジャケパンスタイル。クラシカルなジャケットを合わせれば、まぁ間違いないでしょう。それにしてもミディアムグレーのパンツは万能ですね。

 

ポロシャツ:JOHN SMEDLEY(ジョンスメドレー)

パンツ:IGARASHI TROUSERS(五十嵐トラウザーズ)

シューズ:JALAN SRIWIJAYA(ジャランスリワヤ)

 

ニットポロと合わせたちょっぴりエレガントなサマートラッドスタイル。決してドレス一辺倒ではなく、こんな感じでカジュアルな装いにも取り入れていきたいところ。

 

まとめ

「まるでビスポーク」はさすがに大袈裟ですが、五十嵐トラウザーズがこれまで培った経験と技に触れることはできるかと思います。

 

特に感銘を受けたのはその穿きやすさ。全くストレスを感じることなく、ウールのドレスパンツを穿いているということを忘れてしまいそうです。これは大袈裟じゃなくて。

 

既成品でこれなので、ビスポークしたら一体どうなるのか。地元の福岡でトランクショーを開催していただける機会があれば、是非ともお願いしてみたくなりますね。決して安いものではありませんが、その価値は十二分にありそうです。

 

今回は以上です。