まだまだ暑い日は続きますが、9月に入るこの時期は秋冬用のスーツを仕込むのにちょうどいいタイミングなので、そろそろオーダーを検討されている方も多いのではないでしょうか。
今回はそんなオーダースーツでも人気のディテール「サイドアジャスター」について。服好きの間ではすっかり定番となっていますが、世間的に市民権を得たとまでは言い難い微妙な立ち位置。なのでビジネスの場でサイドアジャスター式のパンツを取り入れても大丈夫なのかというお話です。
結論としては全然「あり」なのですが、その理由やサイドアジャスターを採用するにあたり気を付けるべきポイントについて書いてみます。よろしければご覧ください。
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サイドアジャスターの歴史やメリットについて
そもそもサイドアジャスターとは?
一応説明しておくとサイドアジャスターとは一般的にベルトを通す輪(ベルトループ)が省かれる代わりにウエストの両サイドにサイズ調整用の尾錠が取り付けられたディテールです。物にもよりますが片側2~3cmずつ、合わせて4~6cm程度ウエストを絞ることが可能となります。
近年のクラシック回帰の流れもあり、人気のディテールとなっていますが、一方で日本ではスーツのスラックスにレザーベルトを締めることこそが正式な装いだという風潮があるので、ビジネスシーンでサイドアジャスターを取り入れることに躊躇いがある方もいるのではないでしょうか?かくいう私も以前はそうでした。
このようにジャケットのボタンを留めている状態ならウエスト周りが隠れるので、あまり違いは分かりませんが・・・。
前を開けるとベルトを着けていないことが他の人から見ても判別できるようになります。参考画像ではタイドアップしていますが、ノーネクタイならさらに目立ちますね。
場合によっては「なんでベルトを締めてないの?」と指摘される可能性もありますが、周囲を納得させられるかどうかはあなた次第。そのためにはまずサイドアジャスターの歴史やメリットを知っておきましょう。サイドアジャスターは単なるファッションじゃないんです。
サイドアジャスターの歴史
実はパンツにベルトを巻くという文化は歴史が浅く、諸説あるものの民間向けとして定着したのは第二次世界大戦前後といわれています。
元来パンツを固定するためにはブレイシーズ(サスペンダー)で吊るすことが一般的で、その補助的な役割としてサイドアジャスターが誕生しました。現在でもブレイシーズを愛用される方はいらっしゃいますが、やはり見た目のインパクトが強すぎるということもあってか、クラシカルな着こなしとしてサイドアジャスターのみを取り入れるパターンが浸透しています。
そもそも装具としてのベルトは軍用として使われ始めたのが先で、出自を考えればカジュアルアイテムに属するという考え方もあると思います。まぁ、流石に全てのベルトをカジュアルに分類するというのは言い過ぎですが、タキシードやモーニングコートのような伝統的な正装ではベルトが使われないことからも分かるように、ベルトは決してフォーマルな存在ではなく、歴史的な観点で見ればサイドアジャスターの方が正当な立ち位置にあるといえるでしょう。
なぜかサイドアジャスターは流行り物のカジュアルディテールと勘違いされがちなんですが、むしろ逆なんですよね。
サイドアジャスターのメリット
まずは見た目の問題です。「スーツにはベルトを着けなくてならない」という固定概念を取っ払えば、ベルトはシルエットを崩す突起物でしかありません。やはり先入観なしで見ればベルトがない方がすっきりときれいに見えるはず。
また、個人的に大きいと思うのは革靴との関係。ご存じの通り「革靴とベルトの色は合わせるべき」という不文律がありますが、そもそもベルトがなければこのルールに縛られる必要がなくなります。黒色はまだいいのですが、濃淡の幅が広い茶色をバシッと合わせようとすれば、それなりの数のベルトを用意しなくてはなりません。そう考えるとベルトレスの恩恵は結構あるんです。
もちろん趣味的な話でいえばクラシカルな印象が強く打ち出されるという点も見逃せませんね。
何より「ベルトを着け忘れた人」に見られないことが大切
サイドアジャスターの歴史的背景やメリットなどの知識を蓄えたところで、結局はその人が周囲からどのように評価されているのかが大事。どういうことかというと、普段から服装が乱れていて、だらしない人物がある日突然サイドアジャスター式のパンツは穿いてきても、それはただ「ベルトを着け忘れた人」にしか見られないでしょう。
「スーツにはベルトを着けなくてならない」という考えが世間の常識となっている以上、「あの人なら敢えてベルトを必要としないパンツを穿いているんだな」と思わせる説得力も必要となります。
身も蓋もない話ですが、普段からある程度は身だしなみに気を付けていて、真っ当な人物じゃないとビジネススーツにサイドアジャスターを取り入れるのは危険かもしれません。
サイドアジャスターを取り入れるにあたって
初めてのサイドアジャスターは3ピーススーツがおすすめ
なんだかんだ言ってサイドアジャスターは圧倒的に少数派はわけなので、抵抗を感じるのはよく分かります。そこで初めてのサイドアジャスターと合わせておすすめしたいのは、これからの季節にぴったりな3ピースのスーツです。
上の参考画像をご覧いただければよく分かりますが、ベストを挟むことでウエスト周りが完全に隠れてしまうので、とりあえずは周囲の目を気にする必要はありません。またベルトレスにすることで、ベストの生地を干渉する障害物がなくなり見た目がきれいになるという明確なメリットもあります。3ピースのスーツをオーダーするなら是非ともサイドアジャスターに挑戦してもらいたいですね。
持ち出しの長さも意識してみよう
持ち出しとはウエストにある長く伸びたバンド。ベルトをしない状態でフィット感を高めるためのディテールです。一般的なベルトタイプのスラックスだと3cm程度の長さとなります。オーダーをする場合、この持ち出しの長さもオプション対象になっていることが多く、特に指定をしなければ画像のようにノーマル仕様と同じ長さに仕上がります。機能面では全く問題ないのですが、見た目としてはただベルトループがないだけの状態になっていまうので、少し違和感を覚えるかもしれません。
こちらでは持ち出しを長めに指定しました。おおよそ8cmぐらいでしょうか。市販されている既成のサイドアジャスターパンツも大体はこのように持ち出しは長めに設定されています。建前としてはよりフィット感を高めるためですが、こちらの方がより「らしさ」を感じますね。オプション費用が発生したとしても1,000円程度なので、せっかくなら持ち出しは長めに設定することをおすすめします。
ベルトループを1つだけ配して、長めに設定した持ち出しを通すという仕様もよく見かけます。これはもう完全に飾りなのでお好みでどうぞ。
まとめ
本文中でも触れましたがサイドアジャスターは単なるトレンドではなく、歴史的に見ても正当なディテールで、決してビジネスの場で憚れるような物ではないというのが私の見解です。
とはいえ、まだまだ日本では少数派であることには違いなく、時には周囲から誤解される可能性もあるのも事実。だからこそサイドアジャスターを取り入れる人が増えて、もっと一般化されれば良いなと密かに願いこのテーマで記事を書いてみました。
最後に当たり前のことですが、私が推しているのはサイドアジャスター式のベルトレスパンツであって、ベルトループが付いている普通のスラックスならちゃんとベルトは締めましょう。カジュアル着ならそこまで気にしませんが、スーツだとやっぱり違和感ありますよ。
今回は以上です。