今回の記事では、定番中の定番とも言えるA.P.Cのデニムパンツ「プチニュースタンダード」を取り上げます。
A.P.Cのデニムと言えば、経年変化による色落ちについてよく語られますが、私は逆に「いかにリジッド(生デニム)の状態を残してクリーンに履き続けるか」ということに注力しています。自分の身体や癖に沿った色落ちも魅力的ですが、A.P.Cのプチニュースタンダードが持つ「光沢のあるリジッドデニムの素材感」「無駄を削ぎ落としたシンプルなデザイン」「ドレスパンツさながらの美しいシルエット」といった要素はジャケパンを始めとしたドレス寄りのコーデと高い親和性を発揮するのです。
ちなみに、私はデニムに対する造詣はあまり深くはないので、専門的なことは期待せず、普通のスラックスやチノパンのレビュー記事を見る感覚でご覧いただけたら幸いです。
A.P.Cデニムの3大モデル
A.P.Cのデニムには今回取り上げる「プチニュースタンダード」を含め3つのモデルがあり、各モデルの違いにも触れていこうかと思いますが、まずはA.P.Cというブランドについて。
A.P.Cの世界観
1987年パリにて、デザイナーのジャン・トゥイトゥ氏が立ち上げたブランド。読み方は「アー・ぺ―・セー」
ブランド名は「Atelier de Production et de Creation(生産と創造の工房)」の略で、和訳するとあまりにも素っ気ない感じになりますが、当時全盛を極めたデザイナーズブランドのように、デザイナーの名前を服に結び付けたくないということが意図されているそうです。
そのため、A.P.Cのコレクションは脱個性的なアイテムが多く、ミリタリーやワークをデザインソースにしたジャケットでも、オリジナルよりもさらに装飾性を削ぎ落したシンプルなデザインに仕上がります。一見すると物足りなく感じるかもしれませんが、「引き算の美学」に基づいた完成された無駄のないデザインは時代に左右されることなく、世界中の人々に愛され続けています。
参照:River ジャケット|HOMME |A.P.C. STORE(アー・ペー・セーストア)
最近はロゴTやトートバッグなど、一目でA.P.Cと分かるものが人気を集めているようですが、やはりこのブランドの本領は高い匿名性にあるのではないかと思っています。
それはブランドの絶対的アイコンであるデニムでも同じ。だからこそ、その素材感やシルエットが際立つのでしょうね。
A.P.Cのデニムパンツはいずれもユニセックスで、「ニュースタンダード」「プチスタンダード」「プチニュースタンダード」の3つに分類されます。ではそれぞれの特徴を見ていきましょう。
ニュースタンダード
参照:ニュースタンダード|デニム|A.P.C. STORE(アー・ペー・セーストア)
奇しくもコロナ禍でよく耳にする「ニューノーマル」を連想させるこのネーミングは、デザイナーのジャン・トゥイトゥ氏が「履きたいデニムが見つからない」と自らの手で一から生み出したことに由来します。ストレートシルエットが特徴の最も太いクラシックモデルですが、リーバイス501のようなアメカジ的野暮ったさはなく、洗礼された雰囲気すら感じさせるのは流石です。
プチスタンダード
参照:プチスタンダード|デニム|A.P.C. STORE(アー・ペー・セーストア)
ニュースタンダードをコンパクトにしたモデル。股上は全モデルの中でも最も浅く、膝下からは緩やかなテーパードが掛かっています。現代的で癖が少ないモデルと言えるのではないでしょうか。
プチニュースタンダード
参照:プチニュースタンダード|デニム|A.P.C. STORE(アー・ペー・セーストア)
名前の通り、上記2モデルの特徴を合せ持つモデル。股上や腰回りにはある程度のゆとりがある一方で、膝下からは強烈なテーパードが掛かっています。よく「ニュースタンダードとプチスタンダードの中間」という表現もされますが、実際にはこのプチニュースタンダードが最も細身のモデルと言えるでしょう。今回レビューするのはこれ。
ストレッチ素材やウォッシュ加工のモデルもあり
参照:ニュースタンダード|デニム|A.P.C. STORE(アー・ペー・セーストア)
ここまで挙げたのはコットン100%でリジッドのモデルとなりますが、ポリウレタンを混合したストレッチモデルやウォッシュ加工のモデルの存在します。
※リジッド・・・未洗濯で糊付きのデニムのこと。いわゆる生デニム。
ノンストレッチのリジッドデニムは固くて、最初はまともに履けたものではありませんが、その風合いには代えがたい魅力があるので、せっかくA.P.Cのデニムを買うなら絶対的に「コットン100%のリジッド」をおすすめします。
プチニュースタンダードをレビュー
ディテール
こちらが、2年前に購入したプチニュースタンダードです。詳しくは後述しますが、未だにノンウォッシュを貫きます。流石に糊は落ち始めて、青みも出てきましたが、洗濯を繰り返したデニムと比較すると深みのあるネイビーや光沢感は健在です。ちなみに生地は日本デニムの聖地・岡山県産だそうです。リーバイスなどでも岡山デニムを使ったモデルがあるように、我々日本人が思っている以上に世界からの評価が高いみたいですね。
次にシルエット。裾幅はかなり細めで、膝下から強めのテーパードが掛かっているのが分かるでしょうか。このテーパードが実際に着用した時の美しいシルエットの秘訣なのです。
後はこんな感じ。多くのデニムに見られる革パッチやバックポケットのステッチなどの装飾は省かれています。オレンジのステッチは濃紺の生地によく映えますね。
こちらのリーバイスと比べると、A.P.Cのデニムがいかにシンプルであるかが分かりますね。
前開きはジッパーではなく、昔ながらのボタンフライ。最初はこのボタンを留めるのにも一苦労するくらい生地が固かったと記憶していますが、今ではだいぶ馴染みました。
匿名性の高いこのデニムが唯一ブランドを主張するのが、このフロントボタン。ロックを愛するデザイナ―の思いを込められたギターと剣のモチーフがあしらわれています。
リベット(=補強金具)もフロントボタンと同じく爽やかなシルバー。リーバイスを始めリベットには銅が使われることが多く、泥臭い印象が拭えませんが、クリーンなこのデニムにはシルバーのリベットがよく合います。
セルビッジデニムの証でもある「赤耳」もしっかり確認が出来ます。ちなみに、セルビッジデニムとは旧式の織機で織られたデニム生地のことで、現在主流の量産織機と比べると生産効率が悪い一方で、独特の風合いがあり色落ちも良いとされています。
サイズ感
身長173cm体重65kgの私はいつもの感覚で、マイサイズは30か31だろうと思い込んでいましたが、店員さんに勧められたのはまさかの29!?
正直30でもキツかったので、29は無理だろうと思いましたが、ぎりぎり履ける。フロントボタンを全部留めるのに5分くらいかかりましたが。(笑)
それでも履いているうちに生地が伸び、身体に沿ったジャストサイズになるとの店員さんのアドバイスを信じて、サイズ29を購入しました。
購入当初は屈伸するのも大変でしたが、今となってはサイズ29で正解でした。生地が伸びたおかげで腰から太ももにかけてはある程度のゆとりがあり、確かにスリムなシルエットではありますが、スキニーのように細すぎることもありません。まさにジャストフィット。サイズ30だと今ごろちょっと緩くなっていたかもしれませんね。
誰かが言っていた「A.P.Cのデニムは何とかボタンが留まるくらいでちょうど良い」という格言はあながち間違いではなさそうです。
スラックスを履くようなイメージで
冒頭から書いてある通り、私の提案するプチニュースタンダードの着こなしはあくまでもドレスに。そのための工夫の一つとして、デニムであってもスラックスと同じようにハンガーに吊るして保管しています。アイロンでプレスをかけたりはしませんが、クリースのような自然な癖がつきます。
正面に軽い折り目がつくことで立体感が生まれ、美しいシルエットがより強調されます。また、ロールアップする際にはスラックスのダブル幅を意識して4cmくらにすると、革靴もきれいにキマります。
A.P.Cデニムの取り扱い
A.P.Cのデニムを購入したら、取り扱い方法を指南したカードが付属し、同じ内容が公式オンラインストアにも掲載されています。
過激主義
出来るかぎりジーンズを洗わずに履き続け、初回洗いはドライクリーニングで、2回目以降の洗いは、WOOLITE NOIR(濃色製品用洗剤)を少量混ぜた水にジーンズを1時間程浸けておき、すすぎ、バスタオルで包んで干す。
セミ過激主義
WOOLITE NOIR(濃色製品用洗剤)を混ぜた水にジーンズを1時間程浸けておき、こすらずにすすぎと脱水をし、干す。
洗濯機
WOOLITE NOIR(濃色製品用洗剤)を使い、メニュー:常温水、デリケート洗い、脱水無し。
海水
出来るかぎりジーンズを洗わずに履き続け、ジーンズを履いたまま海に入る。乾いた砂でこする。
これを何度か繰り返す。水ですすぎ、太陽にあてて乾かす。
引用:DENIM | 洗い方 | A.P.C. STORE (アー・ペー・セーストア)
デニムの取り扱いについての考え方は人それぞれでしょうが、今の時代にブランド側から洗濯に否定的なメッセージが発せられるのは珍しいかもしれません。特に一番下のは何なんだ。(笑)
極力洗濯しないことを推奨するのは、メリハリのついたより良い色落ちを目指すためですが、私の場合はリジッド状態を保ちたいがために、購入から2年以上経過した今でも未洗濯の状態です。「いや、さすがに汚いだろ」と思われそうですが、特に汗をかく6月~9月の間は一切履かずに、それ以外の期間も出番はある程度限られるので、この2年間強の間にこのデニムを履いた回数は30回程度ではないかと思います。着用後は軽くブラッシングをかけて埃を払い、効果の程は不明ですが、リセッシュやファブリーズを適時振りかけて除菌消臭に努めてきました。
ジーンズの出自を考えれば本末転倒ですが、過保護に扱ってきたので、目に見える汚れや気になる匂いは確認されません。とはいども、そろそろファーストウォッシュの時期かなとも思っています。
色落ちをさせないように扱ってきたので、いわゆるヒゲや蜂の巣はほとんど育っていません。私もデニムの経年変化は嫌いなわけではないので、ファーストウォッシュ後は方針転換して、自分だけの色落ちを楽しみたいですね。
コーディネート
ジャケット:LARDINI(ラルディーニ)
ニット:EDIFICE(エディフィス)
パンツ:A.P.C
靴:REGAL(リーガル)
時計:OMEGA(オメガ)
デニムを使ったジャケパンコーデは基本中の基本だけに、パンツのシルエットがものを言います。ドレスパンツ顔負けの美シルエットなこのデニムなら間違いありませんね。
ジャケット:BROOKS BROTHERS(ブルックスブラザーズ)
ニットポロ:BROOKS BROTHERS(ブルックスブラザーズ)
パンツ:A.P.C
靴:PIEVE(ピエーヴェ)
時計:FREDERIQUE CONSTANT(フレデリックコンスタント)
この紺ブレのようなボックスシルエットの場合は、少し太さがあるパンツの方が合いますが、フロントボタンを留めれば、ジャケットの太さが強調されすぎないので、スリムなデニムでもキマりますね。ちなみに、スニーカーの場合はロールアップせずに軽くクッションさせて履くことが多いです。
ブルゾン:GREEN LABEL RELAXING(グリーンレーベルリラクシング)
シャツ:無印良品
パンツ:A.P.C
靴:RED WING(レッドウィング)
時計:OMEGA(オメガ)
ライダースにデニム、ワークブーツとカジュアルな要素てんこ盛りのコーデですが、ある程度きれいに纏まって見えるのはパンツの色味やシルエットのおかげでしょう。ボリュームのあるブーツの場合はロールアップの幅は太めの5cmくらいにしています。
まとめ
A.P.Cデニムの魅力をよく語られがちな経年変化についてではなく、いかに新品に近いリジッド状態を維持して、ドレスに着こなすかという観点で書いてみました。
先述の通り、近いうちにファーストウォッシュを行う予定ですが、その際にはリジッドデニムを一本買い足そうと思います。
もう一度プチニュースタンダードか、もしくはプチスタンダードか。それに別のブランドを見てみたい気持ちもある。いずれにせよ、デニムブランドの知識は不足している分野なので、情報収集してみようかなと思います。
今回は以上です。