実はもう3ヶ月程経っていますが、仕事用の靴を新調しました。購入したのはスぺインのシューズブランド Berwick(バーウィック)の「5270」というモデルになります。
正直に言うと今までバーウィックは名前を聞いたことがある程度の認識で、なぜかずっとアメリカのブランドと思い込んでいたぐらいです。
そんな私なので、今回の靴選びでは当然バーウィックは候補に入っていなかったわけですが、たまたま店頭で目にしたこの靴がイメージしていた物とドンピシャ。実際に足を入れてみると馴染みも良い。
ということで今年2足目の革靴は、検討に検討を重ねた前回のモールトンとは打って変わって偶然の出会いで初のバーウィック購入となりました。
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バーウィックについて
冒頭でも触れた通り、ほぼバーウィックの予備知識なしで購入したので、今から書くことは後付けの知識となりますがあしからず。
ブランドの正式名称は「Berwick1707」。その表記から1707年創業と勘違いされがちですが、実際のところは1991年に誕生した新興勢力です。老舗揃いの革靴業界の中ではまだまだ若造ですね。
では、なぜそのようなネーミングになったのかというと以下の通り。
- ブランドはスペイン東部の街アルマンサで創業。
- ヨーロッパの歴史上でも重要な戦争「アルマンサの戦い」がこの地で勃発。
- その時の指揮官で英雄となったのが「バーウィック公爵」。
- 「アルマンサの戦い」が行われたのが1707年。
・・・うーん、ちょっと無理矢理感は拒めないかな(笑)。
ちなみにジョンロブやエドワードグリーン、チャーチなどの名だたる英国ブランドでも1800年代の創業ですが、現存する世界最古のシューズメーカーとされるドイツのエドワードマイヤーが1596年からなので、1707年創業だったとしてもあり得ないわけではないんですよね。紛らわしい。
まぁ、ブランド名についてはこれぐらいにして、歴史の浅いバーウィックがここ日本でも注目を集めるようになった理由について触れていきましょう。
まずはなんといってもコストパフォーマンスの高さですかね。グッドイヤーウェルテッド製法を採用した本格紳士靴をが2万円台から用意されています。さらにアッパーにはデュプイ社やアノネイ社などの超有名タンナーのレザーを使っているとうのも大きなセールスポイントになっているみたいですね。
これは購入店の販売員さんからの受け売りですが、高コスパを実現する秘訣は革のカッティング方法にあるそうです。一枚革から型紙に沿って切り出す際に一般的には手作業による伝統的な手法が取られますが、バーウィックでは最新のレーザー裁断機を使用して効率的に無駄なくカッティングが行われます。革靴マニアの大好物でもある「クラフトマンシップ」には欠けるのかもしれませんが、サスティナブルの観点からみても実に合理的です。
また決して華美な方向性に走らない、普遍的でクラッシックなデザインもバーウィックの魅力です。スペインの革靴ブランドは色気溢れるイタリア靴と質実剛健な英国靴の中間と形容されることがありますが、バーウィックの場合はかなりブリティッシュライクな印象を受けます。ボリューム感のあるつま先周りなんかはアメリカっぽい気もしますね。
いずれにせよスペイン靴にありがちなスタイリッシュさとは縁遠いからこそ、ある意味私達日本人との相性が良いのかもしれません。
さらにバーウィックでは幅広な足を持つ日本人のために開発された専用ラストも存在し、多くのモデルで採用されています。
まだまだ取扱い店も限られていますが、日本での成功を掴もうというブランドの意気込みが感じられますね。
では次項にて詳細なレビューと行きましょう。
パンチドキャップトゥ「5270」をレビュー
概要
バーウィック公式ではセミブローグと表記されていますが、つま先の一文字のみにブローキング(穴飾り)が施されていることから、パンチドキャンプトゥいう分類でよろしいかと思います。
正式なモデル名は「5270VEDADB」で、5270がスタイル名、VEがアッパーで使用されるレザー(VEGANO/アネノイ社)、DAがアウトソール(ダイナイトソール)を意味しています。最後のDBはおそらくカラーのダークブラウンのことかと思います。
木型にはブランドを代表する925ラスト(通称:マヨルカラスト)を使用。つま先がやや長めで甲の高さも抑えられたドレスシューズ然りとした美しいシルエットが特徴です。
ただ、先述した日本人向けのラストではなく、人によっては合わない可能性もあるので、そこは実際に試着して確認しみてください。(サイズ感の詳細は後述)
ディテール
アッパーにはフランスの名タンナー「アネノイ社」の「VEGANO(ベガノ)」というレザーを使用。国内外の一流シューメーカーでも採用されていることで知られていますね。
このベガノという素材の特徴は顔料を使わずに染料のみで仕上げたアニリン染めです。
私もあまり詳しい方ではないのですが、顔料は粉末が表面に付着することで色を表現する一方で、染料は色素が革に染み込むことで発色させています。下の参考画像が分かりやすいかと思います。
これがどういう違いを生むかというと、顔料染めは表面をコーティングする関係上、革の傷た汚れなどを多少は隠すことが出来るのですが、染料のみを使用するアニリン染めでは革の質感がモロに出てしまうということなんですね。要するにすっぴんに近い薄化粧ってこと。逆を言えばそれだけ元々の革質が良くないと勝負出来ないのです。
ちなみに本格革靴では馴染み深いボックスカーフなんかは一般的に顔料染めなので、それと比べるとアニリン染めのレザーは透明感があり、物理的な質感も柔らかくなります。
ただ、銀面が剥き出しに近いので水には弱いので、いつも以上に雨には注意が必要かもしれません。
さて、ここまでつらつらとアニリン染めについて書いてきましたが、肝心なのはコイツの革質はどうなのかってことですね。
アネノイ社のベガノといえばある種のブランドですが、当然ながら全部が全部同等のクオリティというわけではありません。明記こそされないもののベガノの中にもグレードがあります。
率直に言うとこの靴に使用されているか革質は並み。3~4万円の革靴と考えたら値段なりです。同じくベガノを使用しているリーガルやスコッチグレインの靴と比べても、特に優れているという印象は受けませんでした。
物自体は悪くはないと思うんですけどね。ただ、各所で見かける「コスパ最強!!」という評判までは至らないかなというのが私の感想です。
こちらは横から。925ラストはトゥがやや長めに設定されていると説明していましたが、決してイタリア靴のようなロングノーズということはなく、あくまでもクラシックなデザインの範疇。
そう感じさせるのはつま先の形状にも由来するのかもしれません。ご覧いただくとお分かりいただける通り、アッパーの先端部が丸みを帯びています。エッグトゥと呼ぶそうです。細身のシルエットの割にはコンフォータブルな履き心地なのもこのエッグトゥが影響してそうです。
また、上の写真で甲と踵部分に深めの皺が入っているのが確認できるかと思いますが、これもアッパー素材の特徴です。先に触れたアニリン染めのレザーは表面がコーティングされていないだけに、皺も入りやすいのです。個体差や等級の差というわけではありません。
少し気になる方もいるかもしれませんが、素材の特性だということをご理解いただければと思います。
レザーのハーフインソールにはブランドロゴが刻印。プリントと違って高級感がありますね。個人的にもお気に入りポイントの一つです。
アウトソールにイギリスのハルボロ・ラバー社が展開するダイナイトソールを装着。サッカースパイクのような凹凸があるので、濡れた路面でも滑りにくい一方で、ビブラムソールやリッジウェイソールといったラバーソールと比べると薄くて見た目もドレッシーだという特徴を持っています。
手持ちの仕事靴が雨用を除くとレザーソールしかなかったので、小雨や雨上がりでも気兼ねなく履けるドレスシューズというのが今回のコンセプトで、最初からダイナイトソールは必須要件でした。
まぁ、その点で言えば雨に弱いアニリン染めのレザーという選択は間違いだったのですが、事前にそこまで調べてなかったので仕方ない。
サイズ感
まず前提としてバーウィックはサイズ表記に対して大きめに作られています。
そのことを販売員の方に説明を受けた上で、足の全長が約24.5cmで幅が約10cmの私はまずサイズ6を試着。未体験のブランドはサイズ6相当をベースに前後させるのが私のフィッティングスタイルです。
実際に足を入れてみるとサイズ6は他のインポートブランドと比べても明らかに大きく感じました。羽根は既に閉じかかり、指も自由に動かせます。人によってはそれをジャストと感じるのかもしれませんが、インソールの沈み込みと革の伸びを考えると、最初から快適すぎます。
そして、次に購入することになるサイズ5.5を試します。レングス(全長)は程よい遊びがあり、ボールジョイントがしっかり固定されて、小指全体が側面に触れているのでウィズ(横幅)も問題なし。甲の高さを抑えた925ラストの特徴からかそれなりの締め付けを感じましたが、経験上これぐらいならなんとかなると判断しました。
週1~2回程度の頻度で3ヶ月着用した結果、僅かながらインソールの沈み込みが始まり、甲部分の締め付けも緩和されてきました。ある程度長い目で見ればこのサイズで正解だったと思います。
最後に参考までにですが、同じくサイズ感が大きめとされるリーガルだと24.0cm~24.5cm(サイズ5.5相当)を選ぶことが多いので、概ね近い感覚を持っていただければイメージしやすいかもしれませんね。もちろんモデルによっても違うのでしょうが。
4984VEVIDBとの違い
「5270VEDADB」と瓜二つな「4984VEVIDB」
参照:Berwick1707 | セミブローグ | 4984VEVIDB – バーウィックジャパン オンラインストア
バーウィックのオンラインストアを眺めていると私が購入した「5270VEDADB」とそっくりな特徴を持つ「4984VEVIDB」というモデルが確認できます。
この「4984VEVIDB」こそが先程から何度か言及した日本人向けのラスト(261ラスト)を採用したモデルなのです。
「5270VEDADB」は39,600円で「4984VEVIDB」が29,700円と約1万円の差があるので、生産国や製法、アッパーの素材が違うのかと思いきやどちらも本国スペイン製のグッドイヤーウェルテッド製法で、アッパーにはアネノイ社のベガノを使用しているとのこと。
強いて言えばパッと見て同じように感じるアウトソールがダイナイトソールより安価なビブラムソールとなっていますが、それだけで1万円も差が付くとも考えにくい・・・。
もしかしたら、革のグレードが異なるのかもしれませんが、日本向けの普及活動の意味も込めて261ラストの製品は価格を抑えれているのかもしれませんね。(違ったらごめんなさい。)
このパンチドキャップトゥに限らず、ローファーやストレートチップなど各モデルでの日本人向けラスト(261・262)は比較的安価な設定になっています。
幅広なだけに少し野暮ったい印象もありますが、そこにこだわりがなければ261ラスト(ローファーは262ラスト)を選んだ方が満足度が高いかもしれませんね。
バーウィックのおすすめモデル
ラストやアウトソール違いも含めて実に豊富なラインナップが揃うのもバーウィックの魅力です。ここではその中から私が気になったいくつかのモデルをピックアップしてご紹介します。
8491SILEDB
参照:Berwick1707 | タッセルローファー | 8491SILEDB – バーウィックジャパン オンラインストア
バーウィックといえばこのタッセルローファーをイメージする方が多いかもしれません。ブランドを代表するモデルの1つです。ローファーなので紐靴以上にフィッテイングが大切になるのは言うまでもありませんが、こちらは日本人向けに開発した262ラストを採用しているので、ヒールカップが絞られていて多くの人を悩まさせる踵抜け問題を解決してくれるかもしれませんね。
5293LUVLGR
参照:Berwick1707 | コインローファー | 5293LUVLGR – バーウィックジャパン オンラインストア
パラブーツのランスを沸騰させる、ごっついラバーソールを装着したコインローファー。ワイドなシルエットやノルウェイジャンウェルテッド製法を採用しているあたり、そのまんまですね(笑)。でもカッコいい。
5212SBLEDB
参照:Berwick1707 | ダブルモンクストラップ スエード | 5212SBLEDB – バーウィックジャパン オンラインストア
スタイリッシュなダブルモンクストラップ。デザイン的にもスリムな915ラストが合いますね。ダブルモンクだけでもかなりの種類がありますが、個人的にはこのスエードモデルがイチオシ。
2369CCVIDB
参照:Berwick1707 | Uチップ | 2369CCVIDB – バーウィックジャパン オンラインストア
これは・・・モールトン!?
5236COJRBK
参照:Berwick1707 | プレーントゥ コードバン | 5236COJRBK – バーウィックジャパン オンラインストア
バーウィックにはコードバンを使用したモデルもあります。今の時代に10万円を切るコードバンって希少ですよ。さらにアウトソールには最高級のレザーソールとしてしられるJRソールを採用しています。これはなかなかですね・・・。
まとめ
バーウィックは今までそんなに意識してこなかった存在でしたが、実際に手にして、そして色々調べてみると見所のある面白いブランドだと気づかされました。
円高や物価費高騰といった諸事情もあり、海外の革靴ブランドはどんどん高嶺の花のような存在になってしまいました。だからこそバーウィックのような新興勢力には期待をしたいところなんですよね。
取り扱いは東京・大阪の直営店以外だと一部の百貨店が中心になりますが、最近ではビームスの店舗でもよく見かけるので、機会があれば是非一度手に取ってみてください。
今回は以上です。